雨が激しくなり、南部へ急いで向かうが、峠では土砂降りとなった。瀬戸内町に着くと小降りになった。古仁屋から東のヤドリ浜に向かい、道路沿いのマネン崎展望台から南を眺めると加計呂麻島が見え、東の眼下には嘉鉄湾が見下ろせる。まだ雨雲が山にかかり、マリンブルーのはずの湾内も、海辺近くは泥水で濁っている。
マネン崎から嘉鉄湾を大回りして、ホノホシ海岸への道を左に分けて、奄美大島南端近くのヤドリ浜に着く。きれいな砂浜が大きな弧を描くこのヤドリ浜には、海水浴場に隣接したキャンプ場があり、炊事等や水洗トイレなどが無料で使用できる。
ヤドリ浜からホノホシ海岸へ向かう途中で見かけたこの花は、ツンベルギア・グランディフロラ(Thunbergia grandiflora) という常緑つる性多年草である。原産地はインドのベンガル地方なので、別名ベンガルヤハズカズラという。ツンベルギア属の花は、明治以降に日本に渡来し、主に沖縄などの南国あるいは温室で育てられている。属名は、「日本植物誌」で知られるスウェーデンのウプサラ大学教授のツンベリー(Thunberg) の名にちなむ。英名は、skyflower 、blue trumpet vine という。
ホノホシ海岸の駐車場脇の草地に、アマサギが数羽群れていた。アマサギ(Bubulcus ibis)は、首から先が黄色(飴色)で、それが和名の由来となっていて、飴鷺、猩々鷺とも表記される。
ホノホシ海岸へ向かう草地に、ピンク色のヒメハマナデシコ(Dianthus kiusianus)が咲いていた。日本固有種で、和歌山県、愛媛県、九州および南西諸島の海岸の砂浜や岩場に生育する。右手にはボタンボウフウの葉が見え、右下にはミヤコグサが少し見える。
こちらがボタンボウフウ(Peucedanum japonicum)の花である。本州中部以西、四国、九州、南西諸島、台湾、フィリピンなどの海岸の砂地に生えるセリ科の多年草で、和名は葉の形がボタンの葉に似ることによる。クロロゲン酸、ルチンなどポリフェノールが豊富に含まれ、奄美や沖縄では古くから天ぷらなどで食されてきた。「一株食べると一日長生きする」といわれ、長命草と呼ばれる薬草として栽培されてもいる。
白い小さな花はハマボッス(Lysimachia mauritiana)。日本、中国、インドなどに広く分布する無毛で多年草の海浜植物。漢字では「浜払子」と綴り、花の咲く様子が払子に似ることに由来するというが、どう見ても坊さんの持つ仏具の払子と似ているとは思えない。ピンクの花はヒメハマナデシコ、黄色の花はミヤコグサ。ミヤコグサ(Lotus cornicuratus var. japonica)は日本全国どこにでも生育している多年草。
ヤドリ浜は大島海峡を挟んで加計呂麻島に面しているが、東のホノホシ海岸は太平洋に面していて、海岸の石は打ち寄せる荒波に洗われて玉石と化している。波が引くときには石が擦れてゴロゴロガラガラと大きな音が聞こえる。この丸い石は持ち帰り厳禁となっている。
ホノホシ海岸にはテッポウユリ(Lilium longiflorum)がちらほらと咲いている。九州南部および南西諸島原産の日本固有種の多年生球根植物で、海岸に自生する。別名を琉球百合という。ラッパに似た形の筒状花を横向きに咲かせる。観賞用、切り花用として栽培もされている。
瀬戸内町の中心、古仁屋に戻る。宿のサンフラワーシティホテルは、加計呂麻島を舞台にした「男はつらいよ」のロケで山田洋次監督や寅さん一行がよく利用していたホテルで、ロビーには当時の写真がたくさん貼られていた。近くの酒屋では、里の曙ほか奄美諸島の黒糖酒が勢揃いしていて圧巻であった。
宿では夕食がないので、近くの丸屋レストランに出向いた。この店は古くから地元で愛され、定食のほか郷土料理もあり、黒マグロ刺身が自慢というので頼んでみた。
イカ刺身も分厚くて美味しかった。
鳥モモの塩焼きも黒糖酒も満足できた。