エメラルドブルーの海の色を味わいながら遊歩道を進む。崖側には鮮やかな青紫色のキキョウ(Platycodon grandiflorus)の花がいくつも咲いている。日本全土、朝鮮半島、中国、東シベリアと広く分布している多年生草本植物。秋の花のイメージが強いが、開花時期は6月下旬から9月上旬で、星形の花冠の形と色が印象的である。
遊歩道が終わってなおも砂浜を進むと、レストハウスがあり多少の飲み物が売られている。今は引き潮なのであろうか、振り返ると、辰ノ島の砂浜はとてつもなく広々と干上がっていて、海に入るためにはかなり歩かなくてはならない。
早速、レストハウスの裏手から遊歩道を登り始める。高さ30mほどの見返り坂より振り返ると、だだっ広い砂浜と浅瀬の海水浴場、入江の先には勝本の街まで眺められる。
足下の岩の合間に生えていたのは、光沢がある分厚い葉に白い4弁の花が鮮やかなソナレムグラ(Leptopetalum coreanum var. coreanum)というアカネ科シマザクラ属の多年草。磯馴(そなれ)の松と同じく、強い潮風を受ける海岸の岩上に生えることからソナレと名付けられた。本州関東以西、四国、九州、南西諸島、朝鮮半島、中国、フィリピン、インド、ミクロネシアに分布し、海岸の岩場に生育する。従来フタバムグラ属に分類されていたが、近年、シマザクラ属に移された。
高台に出て南を眺めると、高さ50mほどの断崖の先に目出柱がわずかに認められ、その先には壱岐島の姿が見えた。
セリ科の植物は、姿形が似ているものが多く、同定するには葉や茎のアップが必要である。だがこの花は、シシウド属のハマウド(Angelica japonica)であろう。本州関東以西、四国、九州、沖縄に分布し、海岸に生える大型の多年草。
昨日、郷ノ浦町の牧崎で見た鬼の足跡とそっくり同じ足跡が、ここ辰ノ島にもある。この穴も壱岐の土台石といわれる勝本層を東シナ海の荒波が侵食した海蝕洞の上部が陥没してできた穴である。鬼ヶ島伝説でデイという大鬼が褌で鯨を掬い取るために踏ん張った時にできた足跡と言われる。もう片方の足跡が郷ノ浦町の牧崎にあった鬼の足跡である。
鬼の足跡の底の部分は、海に繋がっていて蛇ヶ谷と呼ばれている。先ほど辰ノ島周遊船から覗き込んだ海蝕洞である。
羽奈毛崎も先ほど遊覧船から覗き込んだところで、今度は高さ50mほどの断崖の上から見下ろしている。柵もないので足元がおぼつかない。
見下ろした遊歩道の先に目出柱の岬、そのすぐ後ろに目出鼻の防波堤が認められ、さらに背後に壱岐島が広がっている。
遊歩道は鬼の足跡を時計回りに東に向かう。鬼の足跡を今度は東側から覗き込むと、細い海蝕洞全体が見下ろせて、海につながる様子もはっきり確かめられる。こんな海蝕洞ができるのに何万年かかったものか、想像できない。