去年の7月中旬の連休に、知人の退職記念旅行を企画・引率し、大人数で高千穂峡と国東半島を訪ねた。熊本空港から高千穂へ向かう途中、阿蘇の外輪山の山麓で昼食となった。1年前の熊本地震の影響でまだ復旧の遅れているところが何箇所か残っていたが、その前年にも眺めた阿蘇山は変わらず雄大な姿を保っていた。
阿蘇の名物、赤牛のランチのメインは、赤牛のクリミ(赤身肉)のポワレで、オリジナルのソースがかけられ、大変美味しかった。
阿蘇外輪山の高森峠を超えて宮崎県の高千穂に至り、早速、天岩戸神社に向かう。岩戸川を挟んで東本宮と西本宮があり、天の岩戸と呼ばれる岩窟手前にある西本宮を多くの観光客が訪れるが、ともに皇祖神天照大御神を祀るとはいえ、創祀以来皇室や朝廷からではなく、在地住民からの信仰を主としている。この西本宮は天岩戸の遥拝所とされてきたが、本殿を持たず、昭和61年造営の拝殿の背後の対岸にある天岩戸は、社務所に申し込まなければその崩れた跡も拝むことができない。しかし天岩戸説話は天上界の出来事であり、ここが天岩戸だと称する場所は国内に十数箇所もある。
左奥に見える建物は神楽殿で、右の建物は拝殿左手の御旅所であり、その前の巨木は細長い実が特徴の珍しい古代銀杏という。
観光客の多くは天岩戸神社の参拝後、岩戸川に沿って10分ほど歩き、天安河原に向かう。天岩戸説話で天照大神が岩戸に隠れた際、天地暗黒となり八百万の神が河原に集まり神議したと伝えられる大洞窟で、別名、仰慕ヶ窟(いわや)とも呼ばれている。
以前は小さな社のみだったが、いつの間にか祈願者たちがあちらこちらに石を積むようになったという。
天安河原の前を流れる渓流は岩戸川で、右に下って行くと高千穂峡から流れてくる五ヶ瀬川と合流して延岡市から日向灘に注ぐ。
岩戸川沿いの散策路は湿っていて、岩壁にはイワタバコ(Conandron ramondioidas)が着生して薄紫色の花を咲かせている。本州以南に自生する多年草で、若葉は食用にできる。
高千穂町の中心部のすぐ東に天真名井がある。天孫降臨神話で、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)が降臨のとき、この地に水がなく、天村雲命が再び高天原に上がり、天真名井の水種を移したと伝えられる。推定樹齢1300年の欅の老木の根元から今も天然水が湧き出している。
高千穂神社では夜神楽が催されている。高千穂神楽は観光協会が昭和47年から年中無休で実施している観光神楽として知られている。これは手力雄(たぢからお)の舞。天照大神が天岩戸に隠れた際、手力雄命が天岩戸を探し出す様子を表現する。
二番目は鈿女(うずめ)の舞。天岩戸の前で天鈿女が面白可笑しく舞って、天照大神を誘い出そうとする。天岩戸隠れの神話に登場する天鈿女命の舞が、日本最古の踊りとされる。
三番目は戸取の舞。手力雄命が力強く岩戸を開いて、天照大神を迎え出す舞。
四番目は御神体の舞。別名、国生みの舞といい、イザナギ・イザナミの二神が酒を作って仲良く飲み、抱擁し合って夫婦円満を象徴する。最後は客席に入り込んでサービスする。こうして、夜神楽三十三番より代表的な四番を味わうことができる。