半坪ビオトープの日記

高千穂神社


高千穂町の中心部から高千穂峡に向かう途中の交差点の右手に、高千穂神社が鎮座している。大きな青銅製明神鳥居の扁額には、「高千穂宮」とある。

高千穂神社は、古来「十社大明神」や「十社宮」などと称され、明治4年(1871)に「三田井神社」と改称、明治28年(1895)に高千穂神社と改称した。主祭神は、一之御殿の高千穂皇神(たかちほすめがみ)と二之御殿の十社大明神高千穂皇神は、日本神話の日向三代と称される皇祖神とその配偶神(天津彦火瓊瓊杵尊木花開耶姫命彦火火出見尊豊玉姫命彦波瀲武盧茲草葺不合尊玉依姫命)の総称で、十社大明神は、神武天皇の皇兄・三毛入野命(みけぬのみこと)とその妻子神9柱の総称とされる。三毛入野命は、『記紀』に浪穂を踏んで常世国に渡ったとあるが、当地の伝承では、高千穂に戻り当時一帯を荒らしていた鬼神の鬼八(きはち)を退治、当地に宮を構えたと伝える。また文治5年(1189)の当社の縁起書『十社旭大明神記』には、神武天皇の皇子「正市伊」が「きはちふし」という鬼を退治し、その後正市伊とその子孫等が十社大明神として祀られたという異伝を載せている。さらに正和2年(1313)成立の『八幡宇佐宮御託宣集』に「高知尾(明神)」は神武天皇の御子である神八井耳命の別名で、「阿蘇(大明神)」の兄神であるとの異伝もある。

高千穂は日向三代の宮である高千穂宮が置かれた地と伝えられるが、天孫降臨伝承と在地固有の信仰が融合し、さらに熊野修験も加わるなど複雑な信仰を包含する。また古来より当社の春祭りに対して槵觸神社では秋祭りを行うなど、同神社とは密接な関係を持っている。社伝によれば、三毛入野命が神籬を建てて祖神の日向三代とその配偶神を祀ったのにはじまり、三毛入野命の子孫が長らく奉仕して、のちに三毛入野命他の十社大明神を配祀、垂仁天皇の時代に初めて社殿を創建したと伝える。『延喜式神名帳』には記載がなく、式外社とされる。天慶年間(938~47)に豊後国から大神惟基の長子政次が当地に入り高知尾(高千穂)氏を興したが、社伝によると同氏は当社を高千穂18郷にわたる88社の総社と位置付けて崇めたという。中世になると土持氏の勢力が入り、妻万宮の管轄下、その後、熊野山領に組み込まれた。社伝によれば、源頼朝が天下泰平祈願のため畠山重忠を代参に派遣して多くの神宝を奉納、この時重忠によって現存する重文の鉄製鋳造狛犬一対が献納され、境内にある「秩父杉」も重忠自らが植えたという。南北朝時代には阿蘇氏支配の下、「高千穂郷総鎮守」として崇められ、近世には延岡藩主から崇敬を受けた。
拝殿にある鉄製鋳造狛犬は、重文指定が3件しかないという全国的にも珍しいもので、鎌倉時代の作である。

拝殿の後ろには幣殿が続くが、本殿は離れて建てられている。

現在の本殿は、安永7年(1778)に延岡藩主・内藤政脩が造営した、九州南部を代表する大規模な梁間2間の五間社流造銅板葺の社殿で、国の重文に指定されている。鎌倉時代の男女神像4体があり、県の文化財に指定されている。

本殿の東側回廊奥の脇障子には、高千穂神社祭神の三毛入野命が、霜宮鬼八荒神を退治したという伝説を表した彫刻が施されている。12月には鬼八退治に因んだ猪懸祭が行われ、神道祭祀の原型を留めた古事として知られる。鬼八塚は町内に3ヶ所あるという。蟇股や虹梁上の彫刻も特異な意匠である。反対側の脇障子となる西面奥には小さな稲荷社を設けている。

本殿の裏右手(東)に鎮石がある。この石に触れ祈ると悩みや世の乱れが鎮められるという言い伝えがある。社伝によると、垂仁天皇の勅命により、日本で初めて伊勢神宮と高千穂宮が創建された際、用いられた鎮め石と伝える。なお、往古鹿島神宮社殿造営の際、高千穂宮より鎮め石が贈られ要石として現存するという。

高千穂神社の社叢・境内には多数の巨杉が鬱蒼と屹立している。拝殿前の神木である「秩父杉」は、境内一の大杉で、樹高55m、目通り幹囲7.2m、推定樹齢800年で、高千穂町の天然記念物に指定されている。社伝によると、源頼朝の代参として参詣した畠山重忠手植えの杉と伝わる。重忠が秩父出身のため秩父杉と呼ばれる。

拝殿横には2本の杉の根元が一つになっているという「夫婦杉」が並び立っている。夫婦が手をつないで3周すると夫婦円満・家内安全・子孫繁栄の3つの願いが叶うと伝わる。

本殿の左側の杉の巨木の後ろに、荒立神社・四皇子社が鎮座している。

荒立神社は猿田彦大神・天鈿女命を祀り、四皇子社は神武天皇五瀬命・稲氷命・三毛入野命を祀る。荒立神社は明治末年に同町の村社を合祀したものであり、元の地にも現に荒立神社が復祀されている。

11月下旬に神話に因む高千穂夜神楽祭りが催され、夜を徹して重要無形民俗文化財に指定されている高千穂の夜神楽全33番が奉納される。ちなみに境内の神楽殿では、年間を通じて毎晩、観光用に「手力雄」・「鈿女」・「戸取」・「御神体」の4番が実演されている。