ツバメ山の山頂に近づくと右下には元地港と桃岩が見え、桃岩の下の桃台・猫台展望台も認められた。
道端の笹原には、赤紫色のハクサンチドリの近くに小さな白い花が咲いていた。よく見ると、かなり矮性のナナカマドである。多分、タカネナナカマドより小さい、ミヤマナナカマド(Sorbus sambucifolia var.pseudo-gracilis)のつぼみであろう。北海道と本州中部地方以北の亜高山帯〜高山帯の低木林に自生する。葉は小葉が3〜4対向かい合ってつく、奇数羽状複葉。初夏に白い花を多数咲かせる。
同じく笹原に、キケマン属のエゾエンゴサク(corydalis fumariifolia subsp.azurea)の花を見つけた。北海道、南千島、サハリンに分布し、樹林地や林縁、草地などに生育する多年草。花期は4月から5月。茎の上部に青紫色の花を総状花序に咲かせる。北海道では春を告げる花として親しまれるが、落葉広葉樹林の若葉が広がる頃には地上部は枯れてなくなり、その後は翌春まで地中の地下茎で過ごす、スプリング・エフェメラルの一種。同属のキケマンやムラサキケマンなどと違い、毒性がなく風味がよいので食用に供される。礼文島ではアメフリバナと呼ばれ、若菜はお浸しにして食べたりするという。塊根はアイヌ語で「トマ」と呼ばれ、保存食として利用されてきた。エンゴサクとは、地中の塊茎が漢方薬の「延胡索」に似ていることによる。本種によく似ていて、東北地方や北陸地方に分布するものは、別種のオトメエンゴサク(C. fukuharae)とされる。
ようやくツバメ山の山頂に着いた。展望台から360度の見晴らしを楽しむことができるが、まだ先に一山ある。南へとなだらかな尾根を辿ると元地灯台の展望台へと至る。
北を振り返ると眼下に桃岩や元地港が見える。桃岩の麓には桃台・猫台の駐車場があり、その手前の道がたどり着く赤い建物がユースホステル桃岩荘である。ここは1967年開設。その翌年、大雪山・トムラウシ縦走後に利尻山登山を目指したが、悪天候のため礼文島に寄り、ここにテントを張って一夜を明かしたのはおよそ半世紀前。当時、「南の与論・北の桃岩」は、旅する若者の溜まり場といわれていたのを思い出す。
東の方向には利尻島が間近に迫っている。右下にはこれから下る知床の集落があり、そこから左(北)に向かうと北のカナリアパークが小さく認められる。
元地灯台に近づく頃にはいわゆる高山植物が少なくなってくる。それでもこのレブンハナシノブの花は鮮やかで目立つ。紫色の花びらと黄色の雄蕊が引き立て合って美しい。
タンポポの花にしがみついて花粉を集めているのは、これこそエゾオオマルハナバチに違いない。北海道にはマルハナバチの仲間が12種いるとはいうものの、大きさと色柄からエゾオオマルハナバチといえよう。
ようやく元地灯台に着いた。標高200mのここから知床集落まで2kmを約40分、なだらかな道を黙々と下っていくことになる。
黄色いマメ科の花は、センダイハギ(Thermopsis lupinoides)という多年草。北海道と本州の中部地方以北の海岸近くに生え、高さは40〜80cmになる。先代萩という和名は、仙台藩の伊達騒動を題材にした歌舞伎の「伽羅(めいぼく)先代萩」に由来するという。茎先に総状花序を出し、鮮やかな蝶形の花をつける。
元地灯台からの下り道にタンポポの花がだんだん増えてくるので、もしかしたら中部地方から北海道に普通に生えているエゾタンポポ(Taraxacum hondoense)ではなく、外来植物のセイヨウタンポポ(Taraxacum officinale)ではないかと不審に思い、花をひっくり返して総苞を調べると反り返っていたので、セイヨウタンポポと確認できた。礼文島ではかなり前からエゾタンポポが激減し、セイヨウタンポポあるいは交雑タンポポが広範囲に繁殖していることが問題とされ、セイヨウタンポポの除去作業が十年ほど前から行われている。