またもやサクラソウモドキの花が現れた。茎先に下向きの花を3〜8個つけるが、いつも下向きなので、黄白色という花冠の内側は確認できなかった。それでも漏斗状で先が五つに裂ける花冠は、赤紫色が鮮やかだ。珍しい花なので形と色を目に焼き付けておこう。
ツバメ山が近づいてきて急峻な崖の様子もよく見えるようになった。右手にはまだエゾノハクサンイチゲの群落がある。
エゾノハクサンイチゲ(Anemone narcissiflora var.sachalinensis)は、ハクサンイチゲ(Anemone narcissiflora)の地域変種とされ、北海道と東北地方のほか、サハリンにも分布するが、ハクサンイチゲもヨーロッパや北米の母種の地域変種で日本固有種(Anemone narcissiflora var.japonica)とする見解もある。種小名のnarcissifloraは、スイセン属Narcissusに似た花という意味でリンネの命名。スイセンのように見えるということだが、よく見るとかなり違っている。
こちらの白い花は、アブラナ科のフジハタザオの変種で、エゾイワハタザオ(Arabis serrata var.glauca)という多年草。北海道と東北の亜高山帯〜高山帯の砂礫地や岩隙に生え、千島、サハリンにも分布する。茎葉は茎を抱き、茎先に4弁花を多数つける。
この花は、北海道と本州中部地方以北の亜高山帯から高山帯の草原や湿原に自生するハクサンチドリ(Dactylorhiza aristata)だが、ここ桃岩周辺ではあちらこちらでよく見かける。花色は本州のものに比べてかなり濃く、極めて鮮やかな濃赤紫色といえる。花の左右に羽を広げたように見えるのは側萼片と呼ばれる部分である。花の上部では上萼片と側花弁が合わさって帽子のように見える。花の下部にあるのは唇弁で、円形をしており先が尖る。
ようやくキンバイの谷にやってきた。道端の低い笹原の中にとうとう自生のレブンアツモリソウ(Cypripedium marcanthum var.rebunense)を見つけた。礼文島にのみ生息する野生ランで、アツモリソウの変種である。花色はクリーム色で、6月上旬ごろに開花する。唇弁は大きな袋状で、側花弁は広卵形で先は短く尖る。アツモリソウの和名は、袋状の唇弁を持つ花の姿を、平家物語などの軍記物語に描写された平敦盛の背負った母衣(ほろ:後方からの矢を防ぐ武具)に見立ててつけられた。絶滅の危機に瀕しているため、自生地周辺ではレンジャーが見張っている。
こちらがキンバイの谷の名の元になったレブンキンバイソウ(Trollius ledebourii var.polysepalus)という多年草。礼文島固有種で、根生葉は3全裂し、側裂片はさらに2裂する。花は橙黄色、花弁に見える萼片は5〜10個、雄蕊のように見える花弁は雄蕊より長く、萼片より短い。まだ開花時期に早いのかわずかしか見つからなかった。隣の利尻島には、同じ仲間で利尻島のみに自生する、雌蕊の先が赤くなるボタンキンバイが自生する。
こちらも僅かに見つかったミヤマクロユリ(Fritillaria camtschatcensis var.alpina)。北海道、本州の月山、飯豊山地、中部地方の亜高山帯〜高山帯の草地に生える高さ10〜20cmの多年草。花は暗紫褐色で、茎先に1〜2個つく。母種のクロユリは花が大きく茎先に3〜数個つく。
キンバイの谷からツバメ山は大きく見えるが、360度の展望を楽しみながら20分ほどで登れる。
こちらの花は今までの道端でもよく見かけたミヤマキンポウゲ。レブンキンバイソウの花に比べると小さくて花数が多い。
利尻山をバックにレブンキンバイソウとエゾノハクサンイチゲをセットで撮影できた。紫色の花はハクサンチドリである。