桃岩展望台トレッキングコースは、6・7月にピークを迎えるシーズン中に礼文島内に咲くほとんどの花が見られることから「礼文フラワーロード」とも呼ばれる。キンバイの谷への道はゆっくりとジグザグに南西に向かうが、東に振れた時に左手に利尻山の勇姿が見える。上空は分厚い雲に覆われているが、利尻島が見えるだけでもよかった。手前の高山植物も赤紫、白、黄色と賑やかである。
中で最も鮮やかな花がレブンコザクラ(Primula farinose subsp. modesta var.matsumurae)である。サクラソウ属には類縁種が多くあるが、この花もユキワリソウの変種で、主に礼文島に自生する。レブンコザクラは全体に大型で、一つの花茎に10個前後の花がつくのだが、20個近い花がついているこれは特別に大きい。
右手にはエゾノハクサンイチゲの群落が続き、その先にまだ桃岩の上部が見える。
道端には、青紫色のミヤマオダマキ(Aquilegia flabellata var.pumila)の花が咲いている。北海道〜中部地方以北の高山帯の草地や礫地に生える多年草。花弁に見える5個の青紫色の萼片は傘状に開き、中の花弁は円筒形にまとまって付き、先端はやや白っぽく、花弁の基部は萼の間を抜けて距になり、先は内側に曲がる。周りの小さくて黄色の花は、キジムシロ(Potentilla fragarioides var.major)。日本中の雑木林、草原などに普通に見られる。類縁種が多いが、葉が奇数羽状複葉で5〜7枚なので区別できる。黄色の花弁の基部がオレンジ色になるのは珍しい。
エゾノハクサンイチゲと、本州中部に分布するハクサンイチゲとの違いは、葉の幅が広く先端が尖らないこと、花の柄が短いことといわれるが、その区別は難しくそっくり同じに見える。
叢の中で見つけたこの花は、オオバナノエンレイソウ(Trillium camschatcense)という多年草。北海道と本州北部の山地帯から亜高山帯の湿地、草原、林下に生える。ミヤマエンレイソウにも似るが、花弁が大きく、やや上向きに咲く。本種の葯は花糸より長い。エンレイソウの仲間は全て開花までに10〜15年を要するが、その後最低でも10年間開花し続けることから、寿命は20〜50年と考えられている。
こちらの小さな花は、ユリ科チシマアマナ属のホソバノアマナ(Lloydia triflora)という多年草。日本各地の山地の草原や林縁に生育する。花期は4月下旬〜6月。花茎の先に枝を分けて1〜5個の花をつける。花は平開せず、漏斗状。花被片は6個、白色で淡緑色の脈があり、短い雄蕊が6個ある。
こちらの黄色の花は、ミヤマキンポウゲ(Ranunculus acris var.nipponicus)という多年草。北海道〜中部地方以北の亜高山帯〜高山帯の湿り気のある場所に生える日本固有種。雪田周辺に群生することが多い。
笹原の高台から右後方を眺めると、桃岩の頭がかすかに認められ、眼下には元地漁港がよく見える。元地漁港の先には地蔵岩が立ち、その先に礼文滝のある谷があって、そのさきは人跡未踏の断崖海岸が続く。礼文島の東海岸には道路があるが、西海岸は元地漁港周辺しか道路がないのである。
高台の右前方には、ツバメ山と呼ばれるさらに高い山があり、その右手に猫岩へと至る大きな断崖絶壁がどっしりと構えている。そのツバメ山との間にキンバイの谷と呼ばれる低地があって、ここから降ってまた登ることになる。
キンバイの谷に降る前に、また左手に利尻山が見えてきた。