半坪ビオトープの日記

「杉本博司ギャラリー 時の回廊」、家プロジェクト

杉本博司ギャラリー 時の回廊」、杉本博司の「苔の観念」
杉本博司ギャラリー時の回廊」は、ベネッセハウスパークにおける杉本博司作品の展示空間を周辺のラウンジやボードルーム、屋外にまで拡げ、杉本の多様な作品群を継続的かつ本格的に鑑賞できる世界的にも例を見ないギャラリーである。ベネッセアートサイト直島の黎明期より様々な形でアート計画に参加してきた杉本の当地との関わりを背景に、既存の「松林図」や「観念の形003オンデュロイド:平均曲率が0でない定数となる回転面」などに、「ジオラマ」や「Opticks」といった主要な写真シリーズなどが新たに加わった。ちょっとした中庭には苔がびっしりと生えている。その中に大きな水滴が数珠つなぎのように立っている。この作品は、杉本博司の「苔の観念」。まさに苔の思いが凝縮されているようだ。

杉本博司の「ハイエナ、ジャッカル、コンドル」
地下1階の展示室では、既存の「カリブ海、ジャマイカ」(1980)や「カボット・ストリート・シネマ、マサチューセッツ」(1976)に加え、杉本がアメリカ自然史博物館に展示されている古生物などを再現したジオラマを撮影した「ジオラマ」シリーズより「ハイエナ、ジャッカル、コンドル」(1976)が新たに展示された。これにより「劇場」「海景」を含めた杉本の初期の代表3シリーズが同じ空間に集うことになったという。

ガラスの茶室「聞鳥庵」
屋外では、ヴェニスヴェルサイユ、京都で展示され人々を魅了してきたガラスの茶室「聞鳥庵」(2014)が設置されている。掛け軸や花の代わりに周囲の環境そのものを取り込むことにより外に開かれながら、内省的な空間を実現している。また、単なる彫刻作品だけでなく、実際に茶室として使えるということも、この作品の重要なポイントである。水と自然を生かした安藤忠雄の建築に呼応するかのように佇む。

庭に太い古木
時の回廊」は、杉本の創作活動の原点の一つである直島と、建築や作庭を中心としたプロジェクトの集大成である小田原の「江之浦測候所」を繋ぐものとして作られたという。杉本が探究し続ける「時間」や「光」、そして「自然」を体感できる場所がまた一つ生まれたのである。「聞鳥庵」の少し海側の庭に太く大きな古木がまだ生き生きと枝を広げていて、自然の力を十分に感じさせる。

ニキ・ド・サンファールの「腰掛」

「時の回廊」の南側(海側)、ベネッセハウスパークの芝生エリアに、ニキ・ド・サンファールの屋外作品群が展開する。テラスレストラン前には、「腰掛」(1989)という作品があり、隣に座って記念撮影する人が多い。

ニキ・ド・サンファールの「らくだ」
左手前の作品は、ニキ・ド・サンファールの「らくだ」(1991)であり、右奥の作品はカレル・アペルの「かえると猫」(1990)である。ニキ・ド・サンファールの作品は他にも「猫」(1991)、「象」(1991)があり、「らくだ」同様、鉢植えとなっている。

カレル・アペルの「かえると猫」
カレル・アペルの「かえると猫」も近づいてよく見ると、カエルが猫を持ち上げている姿が、なんともにぎやかで面白い。何枚ものカラフルな分厚い板を重ね合わせて不思議な造形作品になっている。

ANDOU MUSEUM

ベネッセハウス周辺をあらかた見て回った後に、直島の東側にある本村エリアに向かう。この本村地区には、古い民家や歴史ある神社をアーティストが改修し、空間そのものを作品化する、家プロジェクトという企画が実施されている。このANDOU MUSEUMは、安藤忠雄の設計による打ち放しコンクリートの空間が、本村地区に残る木造民家の中に新しい命を吹き込んでいる。安藤の活動や直島の歴史を伝える写真、スケッチ、模型だけではなく、新たに生まれ変わった建物と空間そのものを展示する美術館である。古民家の内部に入れ子状に組み込まれたコンクリートボックスは、母屋の木造屋根部分に設けられたトップライトからの光が館内を照らし、過去と現在、木とコンクリート、光と闇といった対立する要素がぶつかり合いつつ重奏する、奥行きに富んだ空間を演出している。しかし、残念ながら内部は撮影禁止だった。

極楽寺
ANDOU MUSEUMの真向かいには、高野山真言宗極楽寺がある。本尊は阿弥陀如来山号八幡山。伝承によれば、貞観年間(859-876)に聖宝(理源大師)がこの地に草庵を結んだのが起源とされる。後に崇徳院(讃岐院)の直島への来島の際、寺号を改めた。また、至徳年間(1384-86)に来島した増吽僧正が海中より引き上げた阿弥陀如来像を安置され、それが現在の本尊であるという。境内は広く、八幡神社護王神社がある。ANDOU MUSEUMのすぐ南には、家プロジェクトの「南寺」がある。

草間彌生の「赤かぼちゃ」
宮浦港には、草間彌生の「赤かぼちゃ」が屋外展示されている。『太陽の「赤い光」を宇宙の果てまで探してきて、それは直島の海の中で赤かぼちゃに変身してしまった』と草間自身が語ったという作品。水玉のいくつかはくり抜かれていて、内部に入ることができる。宮浦港には、他にも約250枚のステンレス網で構成された、藤本壮介の直島パヴィリオンが屋外展示されている。