昨年の暮れにタイ・バンコクに行ってきた。タイ名物の3輪車トゥクトゥクは、ほとんどが旅行客目当てで、タクシーよりもかなり割高なので眺めるだけで十分だろう。タクシーもほとんどが距離メーターを使う「タクシー・メーター」に表向き改善されているが、実際は観光客に対してはメーターを倒さないことが多いので注意が必要だ。今回は配車アプリで呼びつけるGrabtaxiを利用したが、現在地と行き先を入力するだけなので、便利で安心だった。
バンコク観光の初日は美術館巡りだ。バンコクは信号機も横断歩道も少ない車優先社会で、赤信号でも左折可のところが多いので横断歩道も安心できない。便利なのは高架鉄道BTSで、駅と駅の間が高架歩道(スカイウォーク)でつながっているところも多く、高架の駅をまたぐと向こう側に渡れる。サヤーム・スクウェアはバンコク1のショッピング街で、MBKセンターの向かい、パトゥムワン交差点には、地下2階9階建てのバンコク・アート&カルチャー・センターBACCがある。
BACCは総面積2万5千平米、2008年にオープンしたタイ最大のアート施設で、美術・音楽・舞台芸術・映画・文学・デザインの展示を行っている。玄関前の広場にも、多種多様の立体作品が展示されていて面白い。
BACCは、タイの最先端の現代アートを展示する美術館として注目を集め、ユニークな作品が多いため大人も子供も楽しめる。
特別な企画展以外は入館無料であり、カフェレストランも併設されているので休憩や食事もできる。
1階はイベント会場、2階から4階は約3千平米の展示スペース、5階以上に行くためには身分証のチェックを受け、ロッカーに荷物を預け、7階までエスカレーターを使える。
内部構造は中央部分が巨大な吹き抜けとなり、側壁は螺旋状の展示空間になっていて、緩やかな通路を歩きながら写真や絵の展示を楽しむことができる。
ちょうどこの期間、東南アジアで最大級のLGBTQ「SPECTROSYNTHESISⅡ」という展覧会が開催されていた。香港のサンプライド・ファンデーション(驕陽基金會)とBACCの共同企画で、「すべての人々は平和的に共存できる」として、レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスセクシャル・クィア(LGBTQ)アーティストの制作活動に注目した展覧会である。タイでの開催理由は、「タイは、東南アジアにおいてLGBTQの権利を支持する最も進歩的な国の一つ」だからという。
2年前の台北に続く2回目の展覧会で、東南アジア出身者だけでなく、インド系や中国系の50人以上のアーティストが参加し、絵画や写真、映像、彫刻、インスタレーションなど約130点の作品が展示されている。
作品の近くに作者名が表示されていなかったので不明だが、カナダ人のスニール・グプタ、カンボジア出身のチョヴ・シンリー、ベトナム出身のヤン・ヴォー、香港出身のホー・タム、フィリピン出身のディビット・メダラなどの名が挙げられていた。
この作品の人物像は写真なのか特殊な映像なのかわからないが、瞳を見つめ続けて左右に移動して行くと、生きているようにどの人物も向こうがこちらを見続けているように感じる。いわゆる「モナリザ効果」を味わうことができる。
タイは世界の中でもLGBTに対して比較的寛容な国とされるが、完全に法的保護がされているわけではない。最近はLGBTにQが足されてLGBTQ+などと表記されるようにもなってきたが、このQは、クエスチョニング(Questioning)とクィア(Queer)の二つの言葉の頭文字を採っているという。クエスチョニングとは、自身の性自認や性的指向が不定もしくは意図的に不定としているセクシュアリティであり、クィアとは、人を性で分けること自体を拒否する態度表明であり、アセクシュアル(他者に対して恋愛感情も性的欲求も抱かない)やXジェンダー(男性でも女性でもない性自認をもつ)など、LGBT以外のセクシュアルマイノリティをまとめてQまたはQ+と表記されるようになったという。難しいが、それくらい人の性は多様で複雑なのだということであり、多様で複雑な性の表現はどうやって鑑賞したらよいか、さらに難しい。