姫沼の名は、大正4年に姫マスを放流したことに由来する。エゾマツ、トドマツが鬱蒼と繁り、コバルトブルーの沼の向こうには利尻山の勇姿が眺められるはずだが、まだ湧き上がる雲に覆われて残念ながら見えない。それでもかすかに残雪の白い筋がいくつか認められた。
沼の周囲には一周約800mの遊歩道が整備されていて散策を楽しむことができる。足元に生えるマイヅルソウ(Maianthemum dilatatum)の白い花が小さくてかわいい。深山の針葉樹林に多く自生する多年草で、葉脈の曲がった様子が、鶴が羽を広げたように見えるので、舞鶴草の名がある。小さな花は20個ほどあり、白い花被片4個は平らに開きそり返る。
北を眺めると、大きな吊るし雲が太陽に照らされて、光りながら動き回るのが異様な光景だった。記事を書く本日、富士山で見られた吊るし雲を、間近で見た貴重な体験だった。
足元にスミレの花が咲いていた。スミレは種類が多く、いつも同定に苦労する。この花は北海道に多いエゾノタチツボスミレ(Viola acuminata)と花の形は似るが、葉の先が細くならないので、ツボスミレ(Viola verecunda)であろう。
葉が輪生して白い花を咲かせているこの花は、クルマバソウ(Galium odorata)という多年草。葉は6〜10個が輪生し、基部に葉柄はない。北海道、本州の林中に生育し、朝鮮半島、サハリンからヨーロッパ、北アフリカに広く分布する。乾燥するとクマリンの芳香があり、ヨーロッパではウッドラフと呼ばれてハーブおよび民間薬として利用される。ドイツではヴァルトマイスター(Waldmeister)と呼ばれてビールやワイン、ジュースやケーキの香付けに使われる。
こちらのエンレイソウは、今まで見かけたオオバナノエンレイソウではなく、ミヤマエンレイソウ(Trillium yschonoskii)である。北海道〜九州の山地帯〜高山帯のやや湿った林下に生える多年草。前種の方が花弁が大きくやや丸みを帯び、上向きに咲くのに対し、本種の花は横向きに咲き、花弁もやや小さい。
こちらの白い花は、ツバメオモト(Clintonia udensis)という多年草。北海道と奈良県以北の本州の山地帯〜亜高山帯の林内に生育する。葉は厚みがあり、倒卵状長楕円形で長さ15〜30cm、幅3〜9cmで、数枚を生じ全て根生する。花期は5〜7月、花茎の先に総状花序をつけ、花被片は6枚。周りのマイヅルソウの葉が紛らわしい。
こちらの白い花は、シロバナノビネチドリ(Gymnadenia camtschatica f.albiflora)という多年草。北海道、本州中部以北、四国、九州の山地帯〜亜高山帯の林内や草地に生えるノビネチドリの白花種。葉は長楕円形で脈が目立ち、縁は波打つ。茎先に穂状花序を出し、白い花が密集して咲く。唇弁の先は3裂し、淡紅紫色の細い筋がある。
姫沼の駐車場の脇でニワトコ(Sambucus racemosa subsp.sieboldiana)の花を見つけた。日本各地の山野に普通に見られ、高さは3〜5mの落葉低木だが、この若木は極端に低くてもしっかりと花を咲かせていた。
利尻島の最後に野塚展望台に行く。そのそばにラナルド・マクドナルド上陸記念碑があった。1848年、アメリカ人のラナルドは、日本に憧れ、捕鯨船で焼尻島に上陸したが無人島と思い、次に利尻島に上陸した。密入国者として捉えられた後、宗谷・松前・長崎と送られたが、収容先の座敷牢で日本人に英語を教え、日本初の英語教師となった。彼は上陸後十ヶ月でアメリカに強制送還されるが、1853年にペリーが黒船で来航した時、彼の教え子が通訳として活躍した。
野塚展望台から西を眺めると、鴛泊の街とその右手にペシ岬と灯台が認められた。