利尻島南部は、オタトマリ沼・南浜湿原・仙法志御崎海岸など利尻山を望む展望スポットが点在する。オタトマリ沼から眺める利尻山は、万年雪のあるヤムナイ沢を正面にするアルペン的山容というので、分厚い雲に覆われて姿が確認できないのは残念である。オタトマリ沼は爆裂火口の底が泥炭地となったもので、沼の周囲は爆裂火口内に発達した特異な湿原が広がっている。近年の研究では4000〜4500年前に湿原が形成されたと推測されている。オタトマリとは、アイヌ語のオタ・トマリ(砂・泊まり地)に由来する。
オタトマリ沼には、水鳥の舞う沼を一周する遊歩道もある。周囲約1.1kmで、所要時間は約20分。歩き始めてすぐ、オオアマドコロ(Polygonatum odoratum var. maximowiczii)を見つけた。花弁は合着、茎は弓形で丸く、アマドコロとよく似るが、葉を含めて全体に大きく、アマドコロの筒状花が1〜2個なのに対し、オオアマドコロでは2〜4個になる。よく見ると2個、3個、4個の花が認められる。アマドコロは日本全国に自生するが、オオアマドコロは東北および北海道に自生する。
こちらの小さなランの花は、ギンラン(Cephalanthera erecta)という多年草。日本全国の明るい林内に生育し、花期は5〜6月。葉は互生し、基部は茎を抱く。茎先に数個の白い小さな花をつける。
こちらのシダ植物は、ヤマドリゼンマイ(Osmundastrum cinnamomeum var.fokeiense)という。ゼンマイ属とは別属で、ヤマドリゼンマイ属という1属1種の植物である。日本各地の山地の湿原に生育し、往々にして群生する。若々しい黄緑色の栄養葉と赤褐色の胞子葉が別々に出る二形性が特徴的で目立つ。
こちらの小さなツツジは、イソツツジ(Ledum palustre var.diversipilosum)という常緑小低木。北海道および東北地方の亜高山帯や高山帯の岩礫地や湿った草地に生育する。高さは1m弱。エゾイソツツジともいう。
こちらのグミの花は、アキグミ(Elaeagnus umbellata)という落葉低木。北海道の西部以南、本州、四国、九州などの日当たりの良い林道脇に広く生育する。4〜6月に花をつけ、秋に赤い実が熟す。果実は果実酒など食用となる。
こちらの白い花は、ナナカマド(Sorbus commixta)という落葉高木。日本全国の山地に生え、樹高は3〜12mになる。初夏に白い花を多数咲かせ、秋には赤く染まる紅葉や果実が美しいので好まれる。赤い果実は鳥の食用となるが、果実酒にも利用できる。
静かなオタトマリ沼には多くの鳥が群がり、思い思いに餌をとったり、休んだりしている。
オタトマリ沼より2kmほど南西に南浜湿原(メヌウショロ沼)がある。利尻島最大の高層湿原とはいっても面積は6haほど。海のすぐ近くで海抜約5mの低層湿原でありながら、「ミズゴケ」が繁茂する高層湿原でもあるという、日本では類を見ない珍しい湿原といわれる。
メヌウショロ沼の周りにはアカエゾマツの林が広がる。南浜湿原(メヌウショロ沼)もオタトマリ沼とほぼ同様に形成されたと考えられていて、湿原の泥炭層は厚さ4mにも及ぶ。
メヌウショロ沼の周りにはミツガシワ(Menyanthes trifoliata)の白い花がたくさん咲いている。その中に白鷺が立っている。正式にはシラサギという種名はなく、ダイサギ、チュウサギ、コサギとなっているが、大きさだけで区分けされているので、残念ながらこれはチュウサギだろうと推測するしかない。
メヌウショロとはアイヌ語で「遊水池のある湾」。爆裂火口が縄文海進で入江となり、その後の海退で沼となって取り残されたとされるが、名付けが縄文時代に遡るのか興味深い。この花は、オオバナノエンレイソウ(Trillium camschatcense)という多年草。北海道と本州北部の平地の草原から亜高山帯の湿地や林内に自生する。