半坪ビオトープの日記

天神多久頭魂神社

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ユッカラン

記紀神話で原初の神は、アメノミナカヌシ、タカミムスビカミムスビの3神であり、対馬固有の神であるタクズダマは、タカミムスビカミムスビ両神の子神とされている。タカミムスビとタクズダマは前日に訪れた南部の豆酘に鎮座していたが、北西部の佐護にも、カミムスビとタクズダマが鎮座している。豆酘は龍良山(たてらさん)、佐護は天道山を御神体として社殿がなく、それぞれ天道法師と霊山を信仰する対馬固有の天道信仰の聖地である。佐護の神御魂(カミムスビ)神社の祭神は女房神と記されるが、日の神の女房となった女神、すなわち天道法師の母神を祀った神社とされる。ここでは佐護川の河口部に鎮座する天神多久頭魂神社を訪ねる。境内入り口に咲いていた白い花は、ユッカラン(Yucca gloriosa)の園芸品種と思われるが、細かいことはわからない。

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天神多久頭魂神社

豆酘と佐護は河口の平野部に位置する集落で、遺跡・由緒ある神社が多く、古代の占いの技術・亀卜(きぼく)をそれぞれ伝承していた。豆酘は対九州の、佐護は対朝鮮半島の港として古くから開けていた。佐護川は対馬で一番大きな川で、長崎県でも二位だといわれる。8つの集落からなる対馬最大の山村である佐護は、対馬有数の穀倉地帯で、弥生時代の遺跡が多く、楽浪郡の青銅器も出土している。天神多久頭魂(アマツカミあるいはアメノカミタクズタマ)神社は、延喜式神名帳では、対馬上県郡の「天神多久頭多麻命神社」とあり、「天神(アマツカミ)」と冠した例は全国の式内社中4座しかない貴重なものとされる。

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磐境と天道山

鳥居の両脇には、モンゴル草原の石積みであるオボのような石積みがある。聖地を結界する磐境(イワサカ)である。対馬の古い神社の大半は神籬磐境式だったといわれるが、ここに原型が残されている。ここに二つの石積みで磐境=結界を作り、神が降臨する依代としての神籬である天道山を御神体として遥拝する所としている。

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奥の鳥居の奥

奥の鳥居の奥は竹垣で囲まれた石段があり、石板のような何かが置かれている。

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石板と鏡

その下には鏡が祀られているらしいが、立ち入れないので詳しい事はわからない。単なる遥拝所かもしれない。

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鳥居と磐境、社殿のない境内

苔むした鳥居と磐境、社殿のない境内の先には御神体である天道山が小さくもどっしりと構えていて、古代の宗教形態を偲ばせる景観にいろいろな想いを巡らす。対馬固有の神、タクズタマのタクズとはなんだろうか。一説では、タクとは「高」「貴」「卓」などを表し、「ツ」は助詞として、高貴な卓越した神ではないかという。記紀神話の原初の神々と対馬固有の神々の関連を考えると、想像や空想が広がるばかりだ。原初の3神のうちアメノミナカヌシは古事記では最初に登場する神で、別天津神にして造化三神の一つだが、日本書紀の正伝には記述がなく、異伝に記述があるだけである。そして記紀ともにその事績は何も記述されていない。延喜式神名帳にはアメノミナカヌシを祀る神社は一つもなく、一般の信仰の対象になったのは、近世において天の中央の神ということから、北極星の神格化である妙見菩薩と集合されるようになってからと考えられている。現在アメノミナカヌシを祀る神社の多くは、妙見社が明治期の神仏分離廃仏毀釈運動の際に、アメノミナカヌシを祭神とする神社になったものである。つまり、アメノミナカヌシという神は、古事記の編者がある意図を持って組み入れたもので、古代の具体的な伝承にはなかった可能性が強いと思われる。ひょっとしたら、タクズタマがその位置にあったのかもしれない、と空想が広がるばかりだ。

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佐護湾の西の棹崎公園

佐護湾の西には棹崎公園があり、戦時中に築かれた砲台跡や対馬野生生物保護センター、日本最北西端の碑、せせらぎ園地、キャンプ場などが整備されている。

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寸断された道路

海岸近くまで行こうと思ったら、残念ながら道路が崩落して先がなくなっていた。今回の台風の大雨で崩落したかどうかわからないが危ないところだった。

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せせらぎ園地

ここがせせらぎ園地だが、雨上がりのためか人影はなくひっそりとしていた。

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対馬野生生物保護センター

近くに対馬野生生物保護センターがあったが、新型コロナの影響で7月末から休館していた。ツシマヤマネコを是非とも間近に見てみたいと対馬まで来たのに、残念至極であった。