半坪ビオトープの日記

寒霞渓、表12景


翌朝、小豆島随一の景勝地・寒霞渓を歩いて登った。ロープウェイ駅の脇から「表12景」の遊歩道に入る。入り口には中桐絢海顕彰碑が建っている。中桐絢海(1849-1905)は、江戸で西洋医学を学び、維新後に讃岐で開業した医師。寒霞渓の古称・神懸山をこよなく愛し、風景画をよく描いた。神懸山保勝会を結成して初代会長となり、寒霞渓の名付け親・藤沢南岳を招いた。

遊歩道は鬱蒼と木が茂る中を進むので、時折視界が晴れると空を見上げることになる。木々に囲まれているが、左手の断崖に「錦(きん)屏風」が見えてきた。表12景の第3景である。

なおも数分鬱蒼とした森の中を進むと、左手にポッカリ空があいて岩峰が見える。老杉洞あたりだろうか。老杉洞は大杉の横に洞窟があり、ロープウェイからは見えるが、登山道からはわかりにくいという。

登山道はくねくねと曲がりながら上って行く。上の空は時々見えるが、一向に視界は開けない。それでも道端に満開の藤の花が垂れ下がっているのに出会うと心が和む。

今度は道端に大きな岩が転がっていた。画帖石という安山岩だそうだが、どうも画帖に似た形には見えない。存在感はあるが、サイコロ岩とでも名付けた方がいいのではと思った。

木々の合間から、左手上方に壮大な岩壁が見えている。横に地層のような筋が入り、稜線がギザギザと険しい。雲が段々と重なり合っているというので、層雲壇と名付けられている。

またもや暗い林の中から左手に双耳峰のような岩峰が見える。荷葉岳と呼ばれる岩峰がある辺りだ。そうだとすると、寒霞渓表12景では第9景とされる。

この辺りから視界がかなりひらけてきた。全貌が見えなくて残念だが、これも荷葉岳を少し先から振り返るように見たものと思われる。

そろそろ山頂かと思われる頃、烏帽子岩と瀬戸内海が見えてくる。寒霞渓表12景では第10景になる烏帽子岩は、その名の通り尖った烏帽子型の岩である。

ようやく表12景入り口にたどり着いた。足元には青紫色の可憐な花が咲いていた。ムラサキ科ムラサキ属のホタルカズラ(Lithospermum zollingeri)である。日本全国の山地に生える多年草だが、多数の県でレッドリストの指定を受けている。和名は鮮やかな花色に由来し、ホタルソウ、ホタルカラクサ、ルリソウなどの別名もある。

星ヶ城山(816m)を最高峰とする寒霞渓は、東西8km、南北4kmの集塊岩の山が侵食を受けて奇岩怪石群となった景勝地で、山頂台地は標高600m前後に広大な台地状になって展開し、多くの展望台を有している。寒霞渓表12景の最後となる四望頂展望台はその最西端にあたる。そこからも先ほどの烏帽子岩が奇岩怪石の間に認められる。

左(南)の方を眺めると、眼下にはロープウェイが下る蛇ヶ谷があり、その裏手には裏8景の登山道がとりまくギザギザの峰が見える。はるか彼方には、内海湾や二十四の瞳の分教場がある田浦半島が認められる。

下りのロープウェイ乗り場がある山頂駅に向かって、鷹取展望台、第2展望所と歩いて行くと、黄色いレンギョウの花を見つけた。小豆島にのみ生育するショウドシマレンギョウ(Forsythia togashii)という落葉小低木で、集塊岩に遺存した固有種である。日本で唯一の野生レンギョウと伝えられる岡山県新見市石灰岩地帯に自生するヤマトレンギョウの変種で、香川県レッドリストでは絶滅危惧2類に指定されている。街でよく見かけるレンギョウは、渡来種のチョウセンレンギョウやシナレンギョウがほとんどだが、違いは見分けにくい。

ロープウェイに乗って下って行くと、歩いて登った時には木々に囲まれて見えなかった12景が手に取るように見える。これは第5景の蟾蜍岩。蟾蜍(せんじょ)とはヒキガエルのことで姿が似ていることから名付けられたという。

こちらが第3景の錦屏風。秋になると錦屏風を立てたように紅葉するという。もし再訪できるとしたら秋の紅葉の時期に裏8景を登って見たいものだ。