半坪ビオトープの日記

万座毛


今回の沖縄旅行は2泊と短く、初めての人も半数ほどいるので、南部と中北部の本部半島に絞った。宿泊地である中部の黄瀬ビーチに向かう途中、中部きっての景勝地・万座毛に立ち寄った。万座毛は西海岸の恩納村にあり、隆起した珊瑚岩からなる高さ約20mの崖の上が天然の芝や海岸性の植物に覆われた広場になっている。万座毛の名は、琉球王の尚敬がこの地を訪れた際、「万人が座するに足る毛(もう、野原のこと)」と賞賛したことが由来といわれている。

自然の芝生の周りにはアダンやモンパノキの群生が木陰を作っている。万座毛の植生は、沖縄本島でここしか見られないイソノギクのような植物もあり、「万座毛石灰岩植物群落」として県の天然記念物にも指定されている。手前の白菊がイソノギク(Aster asa-grayi)であり、奄美大島沖永良部島沖縄本島に分布する。奥の丸い葉がクサトベラ(草海桐花、Scaevola taccada)であり、薩南諸島以南の南西諸島と小笠原諸島の海岸に自生する常緑低木である。

万座毛といえば広々とした芝に座り込むのが気持ちいいけれども、やはり沖縄を代表する絶景といわれる断崖絶壁・「象の鼻」を眺める方が勝るだろう。万座毛の遊歩道はゆっくり回っても20分くらいだが、「象の鼻」の隆起した珊瑚礁のダイナミックな景観を楽しんでいると時間がかかるものだ。断崖に打ち付ける荒波のしぶきが、コバルトブルーの海の色を白く浮き上がらせる。

遊歩道に沿って時計回りに北に進むと、象の鼻の先にも岩場が見えてくるなど、少しずつ景観が変わっていく。万座毛の西側(海に向かって左側)には、「裏万座毛」と呼ばれる隠れスポットがあるというが、時間があれば訪れてみたいものだ。

やがて崖から離れたと思うまもなく、今度は断崖が角突き合わせるような奇観が見えてくる。「天然橋」と名付けられているようだが、どう見ても渡るのは危険と思われる。手前にはアダン(阿檀、Pandanus odoratissimus)の群生が見える。アダンは、トカラ列島以南の海岸に生育する常緑小低木で、パイナップルに似た果実ができ、ヤシガニの好物になっている。葉は煮て乾燥させた後、パナマ帽などの細工物にしたり、筵やカゴを編む素材とされる。

天然橋の先を見やると、えぐれた断崖の上に柵があって、遊歩道を歩く人が見える。断崖の先の遥か彼方には、本部半島の姿が望まれる。

イソノギクの近くに咲く薄紫色の花は、ハマゴウ(浜栲、Vitex rotundifolia)という常緑小低木の海浜植物で、本州以南の海岸の砂浜に群生するが、例外的に内陸の琵琶湖沿岸にも生育する。果実は蔓荊子と呼ばれる生薬で、鎮痛、鎮静、消炎作用がある。全体にユーカリに似た芳香があり、古くは香として用いられたため「浜香」と呼ばれたという。

遊歩道は崖のすぐ近くを通っているので、下を覗くと打ち寄せる波の泡立つ様子が興味を引く。

先ほどのえぐれた断崖の先を回り込むと、正面の万座岬の半島全てをリゾートエリアとするANAインターコンチネンタル万座ビーチリゾートの全容が見渡せる。ホテルの右手に万座ビーチがある。

万座毛と万座岬に囲まれた眼下の入り江に、寄り添うように浮かぶ二つの島は、聖観音と慈母観音をそれぞれ祀り「夫婦岩」と呼ばれている。