半坪ビオトープの日記

金作原原生林ウォーク

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金作原原生林、アマミテンナンショウ

次の日は奄美大島のほぼ中央に広がる金作原原生林を、認定ツアーガイドの案内で散策した。亜熱帯広葉樹の金作原(きんさくばる)原生林では、樹齢100年を超える巨木や生きた化石といわれるヒカゲヘゴの群落、ルリカケスキノボリトカゲなどの希少生物も見ることができるという。鬱蒼とした林の中に入ると珍しい植物がいくつも目に入る。この風変わりな葉を広げているのは、アマミテンナンショウ(奄美天南星、

Arisaema heterocephalum)。奄美大島と徳之島の林下に自生する多年草で、葉は2〜3個つき、1519の鳥足状の小葉からなる。花のような緑色の仏炎苞は残念ながら見つからなかった。

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ナギイチ

こちらもあまり見かけない木で、イラクサ科のヤナギイチゴ(Debregeasia orientalis)という。関東南部以西、四国、九州、沖縄、台湾等の沿岸部に自生し、雌雄異株の落葉低木である。黄色い果実は甘く食べられるが、ほとんど利用されていない。

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クワズイモ

大きな葉を広げているのは、サトイモ科のクワズイモAlocasia odora)。四国南部、九州南部、南西諸島、台湾、東南アジアなどに分布する常緑性多年草で、棒状に伸びる根茎が地表を這い、立ち上がる先端から数枚の葉をつける。仏炎苞は緑から白で、花穂は白。観葉植物としても親しまれ、別名アロカシアとも呼ばれる。

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アマミシダ

鬱蒼とした林内には色々なシダ植物が繁茂している。シダの仲間はよく似ているものが多く、葉裏の胞子嚢の様子を見ないと判別は難しいといわれるが、それでもこのシダは、奄美大島特産のアマミシダ(Diplazium amamianum)と思われる。

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ボチョウジ

このひょろひょろした木は、アカネ科のボチョウジ(Psychotria asiatica)という常緑性低木で、別名はリュウキュウアオキ、奄美大島ではシギク、シジク、クダハギなどと呼ぶ。屋久島、種子島以南の琉球列島、台湾、中国南部、インドシナの常緑樹林の林床に生える。中国では若枝と葉を薬用に用い、沖縄では祭祀に用いられたという。

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キンギンソウ

小さな白い花をたくさん咲かせているのは、ラン科シュスラン属のキンギンソウ(Goodyera procera)という。屋久島、琉球列島、小笠原諸島、台湾、中国、インド、マレーシアなどに分布し、山地の湿った場所に生育する。キンギンソウの名の由来は、咲き始めの白い花が次第に黄色になる花が混じる様子を金銀に例えたとされる。

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シリケンイモリ

清水が浸み出しているところにイモリがいた。金作原には鹿児島県の天然記念物であるイボイモリが生息しているのだが、このイモリは加計呂麻島でも見かけたシリケンイモリの方であった。どちらも奄美群島沖縄諸島の特産種だが、生育環境の悪化により生息数は減少しているという。

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ヒカゲヘゴ

奄美大島の随所で見かけたヒカゲヘゴ(Cyathea lepifera)は日本最大のシダ植物だが、金作原原生林では最大といわれる15mほどになる。その大きさから古生代に栄えた大型シダ植物を彷彿とさせ、林立するジャングルの中では、ジュラシックパークに登場するティラノサウルスが今にも現れるような幻想に見舞われる。ヘゴ科の植物はシダ植物の中では比較的新しく約1億年前に出現したとされるが、恐竜が絶滅したのも約6,600万年前とされるから、やはり同時代に共存していたといえよう。

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カクチョウラン

こちらの鶴が飛んでいるような大きなランは、ガンゼキラン属のカクチョウラン(鶴頂蘭、Phaius tankervilleae)という。屋久島と種子島以南、沖縄諸島から東南アジア等に分布し、明るい林内や草原に自生する草丈が1mにもなる日本最大サイズの蘭である。生物地理学上、九州と南西諸島の間に引かれる生物境界線には、屋久島・種子島奄美群島との間の渡瀬線と、九州と屋久島・種子島との間の三宅線がある。渡瀬線を南限にするのは、ニホンザル、ムササビ、ニホンカモシカなどの動物やクリやヤナギ属の植物であり、三宅線を北限にするのは、南方系の蝶やヒカゲヘゴ、ボチョウジ、キンギンソウ、カクチョウランなどの植物である。

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カゴメラン

葉の網目模様が美しいこの植物は、シュスラン属のカゴメラン(G00dyera hachijoensis var. matsumurana)という。 屋久島以南の南西諸島および伊豆諸島の常緑樹林の林床に自生する多年草で、絶滅危惧II類に指定されている。秋に花茎を伸ばし、小さな紅白色の花を多数つける。

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マツバラン

ヒカゲヘゴの幹に生えているのは、マツバラン科唯一の種、マツバラン(Psilotum nudum)と思われる。日本中部以南および世界の熱帯に分布する。樹上や岩の上に生える着生植物で、胞子体の地上部は茎だけで根も持たない。茎は半ばから上で何度か分枝する。地下や腐食の中で胞子が発芽して生じる配偶体には葉緑素がなく、腐生植物として生活し胞子体を誕生させる。別名をホウキランという。昔から姿を珍しがって栽培され、特に変わりものについて江戸時代から松葉蘭の名で栽培され、古典園芸植物の一つとされる。

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チャボイナモリ

米粒ほどの小さな白い花を咲かせているのは、アカネ科のチャボイナモリ(矮鶏稲森、Oohiorrhiza pumila)という多年草である。屋久島以南の南西諸島および台湾、中国南部に分布し、林下のやや湿ったところに生育する。草丈は5〜15cmで、茎頂に集散花序をつくり5mmほどの漏斗状の花を数個つける。

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オキナワウラジロガシ

金作原原生林には巨木が多く、中でもこのブナ科コナラ属のオキナワウラジロガシ(Quercus miyagii)は、推定樹齢150年以上、高さ22m、胸高直径1mの常緑高木で、地上に張り出した板根も大きい。別名はヤエヤマガシ、カシギ。日本固有種で奄美大島、徳之島、沖縄島、久米島石垣島宮古島の湿潤で肥沃な非石灰岩地に分布する。奄美大島大和村の大和浜には国指定天然記念物の林がある。材は硬堅で緻密、首里城前の丸柱、守礼の門など琉球建築の建材に利用された。

他にもツバキ科の常緑高木、イジュ(Schima wallichii)の巨木も見かけた。高さは20mにもなるという。

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ルリカケス

このオキナワウラジロガシの左手にルリカケスの営巣箇所があるというので急な斜面を少しばかり下っていく。カラス科カケス属のルリカケスGarrulus lidthi)は、奄美大島加計呂麻島、請島の固有種で、国の天然記念物に指定されている。奄美大島では、ヒューシャ、ヒョウシャと呼ばれる。全長約40cm、体重約200g、頭部から頸部、尾羽や翼が紫がかった濃青色(瑠璃色)、嘴と尾羽先が白く、ほかは赤褐色でコントラストが美しい。何度か飛び移りながら近づいた樹洞の入口でこちらを警戒しているが、ちょうど繁殖期なので巣の中に卵があるか幼鳥がいると思われる。

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フウトウカズラ、オオキジノオ

ルリカケスを観察してこの金作原原生林探索ツアーも折り返して帰途につく。道端の湿った場所に生えた木につる植物のフウトウカズラ(Piper kadsura)が巻き付いていて、クリーム色の細長い雄花を垂らしていた。コショウ属の常緑性蔓性木本で全体に香りがあり、葉や果実もコショウに似るが、辛味がなく実用にはならない。関東以西の本州、四国、九州、南西諸島、小笠原、台湾などの海岸林に見られ、樹木や岩に這い上がる。奄美では生垣やガジュマルの下生えとして出たりする。南西諸島では葉や茎を風呂に入れて薬湯として利用し、神経痛や打撲・骨折に薬効があるとする。

左に見える大きなシダは同定が難しいが、単羽状複葉で毛や鱗片を有しないので、キジノオシダ属の仲間に違いない。大型で羽片に柄がなく、革質の羽片は長く波状縁となっている。断定するのは難しいが、奄美大島が南限のオオキジノオ(Plagiogyria euphlebia)と思われる。

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リュウキュウキビタキ

林の中を小さな鳥が飛んできて止まった。リュウキュウキビタキFicedula narcissina owstoni)の雄と思われる。樺太や日本各地に分布するキビタキの亜種で、屋久島以南の琉球列島に分布する。全長1314cmで、雄は胸が黄色、腹が緑と美しい。雌は全体に地味である。