奄美市名瀬で昼食後、太平洋側を南下して住用町のマングローブ原生林に向かった。国道沿いから見るマングローブ原生林は、役勝川と住用川の合流するデルタ地帯に広がる71haに及ぶ群落で、国内2番目の広さを誇る。昭和49年に奄美群島国定公園特別保護地区に指定されている。
マングローブとは、熱帯・亜熱帯の河口の湿地帯や沿岸部の干潟に生育し、潮汐によってある時間冠水される湿地の樹木群の総称である。マングローブパークやマングローブ小屋からガイド付きのカヌー探検が体験できる。前者は60分、後者は90分。後者を選び、のんびりマングローブを見て回ることにした。
ガイド付きといっても、カヌー乗り場から役勝川と住用川の合流点までの間に操作法を教えるだけで、あとは自由行動だ。簡単な操作なので誰でも乗りこなせる。
マングローブの樹木は、主としてメヒルギ・オヒルギからなり、その周辺にはシャリンバイ、ハマボウ、サキシマスオウノキ、ナンテンカズラなど南方系の樹木約30種以上が混成する。
メヒルギ・オヒルギは、樹上で細長い種子の中で発芽(胎生種子)をして、根や葉を伸ばして栄養分を蓄え、ある程度育つと自然に落ちて地面に刺さり、すぐ根っこを張るとともに、気根から呼吸できるようにも進化できている。また、塩分を葉に貯めてその葉を落葉させて塩分を排除するなど工夫されている。
タコ足のような特異な根の形(支柱根、呼吸根)をしているのは、地盤が不安定であるためと、土中の酸素が少ないので酸欠を防ぐためという。
メヒルギ・オヒルギは支柱根ができるまで数年かかるので、ここで見られるものは10年以上生育したものである。
満潮時は支柱根が水没してマングローブらしさがわからないので、マングローブの様子を観察するには干潮時が適している。
原生林は小さな支流の中の方がジャングルらしくて迫力がある。小さなカニなどがそそくさと隠れていく。
マングローブの林床には、甲殻類のオキナワアナシャコ、シナレシジミなどの二枚貝、ガザミ、ハゼ、チヌなど様々な生物が生息している。ひょうきんな顔をしているこの魚は、ミナミトビハゼである。
こちらのカニは干潟に多く生息するハクセンシオマネキと思われる。オスの大きなハサミを振る姿が目立つシオマネキだが、このカニは大きなハサミを持たないのでメスであろう。
この大きなシダは、日本最大のシダ植物である、ヒカゲヘゴである。太い幹には白っぽい楕円形の模様があって、蛇のような柄をしているが、これは成長に伴って葉柄が枯れて落ちた痕跡である。下の方は細かい気根が表面を覆って模様が見えなくなる。
この花は野生のクチナシ(Gardenia jasminoides)である。別名ガーデニアとも呼ばれ、学名の種名にある通り、花には「ジャスミンのような」強い芳香がある。静岡県以西、四国、九州、南西諸島の森林に自生するが、園芸用として栽培されることが多い。乾燥果実は生薬、漢方薬の原料(山梔子)として利用される。また、スズメガの仲間、オオスカシバの幼虫がよく葉を食べる。奄美大島以南に分布するイシカワシジミの幼虫は、クチナシのつぼみや果実を餌とすることが知られる。