半坪ビオトープの日記

銀婚湯


洞爺湖を後にし、内浦湾(噴火湾)に沿って渡島半島をひたすら南下して、八雲町の落部川を遡って山間の銀婚湯にたどり着く。旧八雲町は、旧尾張藩徳川慶勝が北海道開拓と旧臣授産のため明治11年、72名を移住させて開拓を始めたことに始まる。平成17年に日本海側の旧熊石町と合併を行い、日本で唯一太平洋と日本海に面する町となった。八雲町の落部から10kmほど山に入った落部川沿いに佇む銀婚湯は、先々代が熱湯の湧出に成功した日が大正天皇の銀婚式の日だったことに因んで付けられた名である。1万坪の広さを誇る敷地内には源泉が5本、林の中に散在する貸切露天風呂が5つある。早速、桂並木の先の杉の湯に向かうが、途中、左手にかつらの湯がある。巨大な岩の上に高床式の砦のような掘建小屋が建てられ、巨岩を刳り貫いた湯船がとてもユニークな風呂だという。

桂並木の下草には野草が色々と花を咲かせている。この白い花はワサビ(Wasabia japonica)であるが、昔から香辛食品、薬用として利用されてきた山菜で、栽培物と区別するためヤマワサビ、サワワサビなどと呼ばれている。

最も多く咲いているこちらの白い花は、ニリンソウ(Anemone flaccida)である。日本全国の山野の林内などに生える多年草で、普通2個の花をつけるとされるが、実際の花数は1〜3個と幅がある。深く裂けた輪生する葉には、サンリンソウのような柄はない。

桂並木から杉木立ちに変わる道を進むと、突き当たりに祠のような建物がひっそりと佇んでいる。ここだけは露天でなく内湯となっているが、小さな明かり窓一つの薄暗い小屋の中に総木造の浴槽が設えられている。帳場で借りる棒状の入湯札を扉の横の穴に突っ込むと、内側のつっかえが外れて扉が開く巧妙な仕掛け鍵は感動ものである。

宿に戻るときに通る裏庭には、小さな渓流が造られていて、水際にはエゾノリュウキンカ(Caltha palustris var. barthei)が大きな株を作り、鮮やかな黄色い花を満開に咲かせていた。北海道と東北北部の亜高山帯から高山帯の湿地に生える多年草で、千島、サハリンなどにも分布する。母種のリュウキンカより葉も花も大きく豪勢である。

翌朝早く、散歩がてらにトチニの湯に向かう。庭をぐるっとまわり込んで宿の裏手にある赤い吊橋で落部川を渡る。川向こうだけでも3箇所ある露天風呂のうち最も遠くにあるので、足元をしっかり整えて遊歩道を進む。

桜の植林や白樺並木を抜けていくと、道端にオオバナノエンレイソウ(Trillium kamtschaticum)が咲いていた。北海道と東北地方の山地帯〜亜高山帯に生える多年草で、白い内花被片がミヤマエンレイソウより大きい。

こちらの花はエンレイソウ(Trillium apetalon)で、内花被片がなく外花被片は緑色から褐色である。北海道〜九州の山地帯〜亜高山帯のやや湿った林内に生える。

スミレなどの花も見ながら散策を楽しんでいると、ようやくトチニの湯に到着する。これほど遠くまで来ると、入湯札の鍵も必要を感じない。巨木の丸太を刳り貫いた湯船には、銀婚湯で最も濃い2号源泉が単独使用されている。丸太湯船の先にももう一つ小さな湯船が設けられていて、どちらも落部川のせせらぎを眺めながらのんびりと露天風呂を楽しむことができる。

宿に戻るときの裏庭で今度はシラネアオイ(Glaucidium palmatum)を見かけた。北海道と本州中部地方以北の深山に生える1属1種の日本特産種であるが、花色は淡紅紫色である。これは花色を濃く品種改良した園芸種であろう。

その近くにはツバメオモト(Clintonia udensis)の白い花が咲いていた。北海道と本州の奈良県以北の山地の林内に生える多年草で、オモトに似た葉を2〜5枚つけ、伸びた花茎の先に小さな花を咲かせる。秋には瑠璃色から藍黒色に変わる液果を実らす。