半坪ビオトープの日記

奥多摩むかし道


4月中旬に軽くウォーキングしたくなり「奥多摩むかし道」に出かけた。奥多摩駅から奥多摩湖までの旧青梅街道だった歴史ある道を歩くファミリーコースだが、昼には奥多摩駅手前の日帰り温泉に戻りたいので、途中の梅久保までバスで行き、下りの道を半分だけ歩いた。
渓谷沿いの山里をたどる道端には春の野草がたくさん花を咲かせていた。もっともよく見かけたのは、このキケマン(Corydalis heterocarpa var. japonica)である。ケシ科キケマン属の越年草で、関東地方以西〜沖縄の低地に生え、高さは40〜60cm。花期は4〜5月。総状花序に長さ2cmほどの筒状の黄色い花を多数つける。葉は3出複葉で羽状に2〜3回裂ける。見た目は可愛いが、有毒種で悪臭がする。茎などの汁がついた手で食事をするだけでも危険だという。

キケマンに混じって、同属のムラサキケマン(Corydalis incisa)が咲いている。日本全国の木陰など湿ったところに生え高さは30〜50cmになる。花期は4〜6月で、赤紫色の花を多数つける。キケマンと同じく有毒でプロトピンを含み、誤食すれば嘔吐・呼吸麻痺・心臓麻痺などを引き起こす。5月になればこの奥多摩でも見かける可憐なウスバシロチョウの、幼虫の食草として馴染み深いムラサキケマンだが、食草が有毒のためウスバシロチョウも有毒となる。そのためか、ひらひらとゆっくり飛ぶ蝶である。

奥多摩むかし道は、国道と多摩川に挟まれた斜面に点在する昔ながらの集落を抜けていく。右手に新緑の渓谷を見下ろす頃、樹齢200年といわれるイロハカエデの古木が姿を表す。

少し進むと左手に「耳神様」が祀られている。昔は耳が痛くてどうしようもない時、穴の空いた石を供えて祈ったという。よく見ると、いくつか穴の空いた石が集められていた。

その先右手に「弁慶の腕ぬき岩」が立っていた。高さ約3mの自然石の下の方に、腕が入るほどの穴があることから、旧道往来の人々に親しまれ、力の強い弁慶に付会されて、そう呼ばれるようになったという。

今度は左手の石垣の上に白髭神社が見上げられた。社殿の向こう側に石灰岩の絶壁があり、古代からこの巨岩が神体として崇拝されていたらしい。秩父古生層のうち、高さ約30m、横幅約40mの石灰岩層に、断層面が露頭するのは極めて稀であり、学術上貴重とされ、都の天然記念物に指定されている。

回り込んだところに白髭神社の参道があったが、先を急いで石段を見上げるにとどめた。

道端には、ヒトリシズカ(Chloranthus japonicus)がひっそりと咲いていた。センリョウ科チャラン属の多年草で、北海道〜九州の山地の林内に生える。高さは10〜30cmで、光沢のある葉は4枚が輪生状につき、縁には鋸歯がある。花期は4〜5月で、茎先に1本の穂状花序を出し、ブラシ状の小さな白い花をつける。普通群生し、かつては「吉野静」といった。『和漢三才図会』には静御前吉野山で歌舞をしたと書いてあり、その静の綺麗さになぞらえたとされる。

木漏れ日がさす林内や林縁には、テンナンショウ属の花がよく咲いている。こちらはミミガタテンナンショウ(Arisaema limbatum)。日本固有種で、本州と四国の山地に自生する多年草で、高さは30〜60cmになる。葉に先立って開花し、花のように見える仏炎苞と呼ばれる部分の先端の両脇がミミのように横に張り出しているのが特徴である。小葉7〜11枚を1組とする葉が2枚つき、葉の縁には不規則な鋸歯がある。秋になると真っ赤な実をつけるが、有毒で食べられない。

ミミガタテンナンショウによく似たこの花は、偽茎が見えないけれどもマムシグサ(Arisaema serratum)と思われる。北海道〜九州の山地の林床に生える多年草で、高さは50〜60cmになる。小葉は7〜15枚で、偽茎に紫褐色のまだら模様があり、マムシを連想させる。マムシグサの種類は、よく似たものや変異が多く分類は難しいが、葉に鋸歯がないので、とりあえずマムシグサとしておく。