半坪ビオトープの日記

尻屋崎、寒立馬


下北半島青森県北東部にある半島で、旧斗南藩に因み「斗南半島」とも呼ばれ、半島が鉞(まさかり)の形に似るため「鉞半島」の別名もある。北東部の岬の辺りは、鉞の柄の先が尖っているように尻屋崎となっている。この辺り一帯の牧草地には、寒立馬(かんだちめ)という馬が放牧されていて、観光の要所となっており、寒立馬とその生息地は青森県の天然記念物に指定されている。

この辺りはかつて南部藩の牧場もあったところで、東通村の海岸地帯には南部藩政時代から田名部馬と呼ばれる比較的小柄で寒気と粗食に耐え、持久力に飛んだ馬が「四季置付」と称し周年放牧されていた。これらは南部馬を祖先に持ち、藩政時代から明治、大正、昭和に亘り、主として軍用馬として外来種との交配により改良されてきた田名部馬であり、なかでも尻屋地区ではブルトン種と交配することにより独自の農用馬として改良されてきた。

立馬は寒気と粗食に耐え、持久力に富む農用馬として重用されてきたが、平成9年(1995)には9頭までに激減した。しかしその後の保護政策により40頭ほどに回復した。かつては「野放馬」と呼ばれたが、昭和45年(1970)に尻屋小中学校の岩佐勉校長が年頭の書き初め会で、「東雲に勇みいななく寒立馬 筑紫ヶ原の嵐ものかは」と詠んで以来、「寒立馬」と呼ばれるようになった。「寒立」とは、カモシカが冬季に山地の高いところで長時間雪中に立ちつくす様を表すマタギ言葉で、冬季の寒風吹きすさぶ尻屋崎の雪原で野放馬がじっと立っている様子が似ていることから「寒立馬」と詠んだといわれる。

尻屋崎への道にはゲートが設けられており、夜間と冬季は閉鎖される。冬季はアタカと呼ばれる放牧地に囲まれて過ごす。道路沿いの草地でものんびり草を食んでいる寒立馬は、大変人に慣れていて人をおそれる気配はない。それどころか止まった車に近寄り、顔をフロントガラスにこすりつけてきたのには驚いた。何が面白いのかしばらくそのまま触れていた。

立馬を真横から見ると、足が短く胴が長く、ずんぐりしているが足腰ががっちりした体格で頼もしい。尻屋崎手前の海岸なので、青い海の彼方、左手(西南)方向には、恐山から大間崎に続く山並みが遠望された。

この辺りから尻屋崎灯台にかけての草地には、赤紫色のアザミの花がちらほらと見られる。ノハラアザミの近縁種で、青森県を中心に、秋田県北部及び北海道の道南及び太平洋側に分布する、アオモリアザミ(Cirsium aomorense)である。茎は直立し高さ0.2〜1m、花期は8〜10月、頭花は直立し、総苞片は鋭角的に斜上する。主に平地から低山の草原に生える。

海岸の右手(北)の方には北海道が見えるはずだが、海の彼方は水平線近くが霞んでいて確認できない。

こちらの黄色い花は、葉の形がはっきり確認できないが、キリンソウ(Sedum kamtschaticum)と思われる。日本各地の海岸や山地の岩場などに生える多年草で、高さは10〜30cm、花期は5〜8月である。花弁は5個、黄色い花を輪状に咲かせることでこの名がついた。葉の縁には鈍鋸葉がある。

岩場にはビャクシン属のハイネズ(這杜松、Juniperus conferta)がびっしりと群落を作って広がっている場所もある。日本各地の海岸の砂地に生え、雌雄異株の常緑低木で、花期は4〜5月、球果は径1cmほどの緑色で、翌年の秋に熟すと黒紫色になる。

こちらの白いノコギリソウは、ヤマノコギリソウ(Achillea alpine var. discoidea)と思われる。ノコギリソウの仲間はみなよく似ているが、普通種のノコギリソウより頭花の数が少なく貧弱な姿をしている。葉にはノコギリソウと同じく櫛歯のように深い切れ込みがある。

9月も下旬になると花の種類もめっきり少なくなってきてうら寂しくなる。それでも雪の舞う厳寒の冬に比べれば穏やかな日和といえよう。

こちらの黄色い花は、ミヤマアキノキリンソウ(Solidago virgaurea var. leiocarpa)である。北海道と本州中部以北の亜高山帯から高山帯の草地、砂礫地に生育する。アキノキリンソウの高山型といわれ、花がまばらにつくのではなく、頂部に固まってつくのが特徴である。