半坪ビオトープの日記

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行きがけにも見かけたコマクサ(Dicentra peregrina)を帰りはゆっくりと眺めることができた。北海道と本州中部地方以北の高山帯の砂礫地に生える多年草で、高さは5~15cmと小さい。葉は全て根生し、3出状に細かく裂け、粉白を帯びる。花茎の先に淡紅色の花を2~7個つける。花弁は4個で、外側の2個は下部が大きく膨らみ先が反り返る。

絶えず強風が吹いて砂礫が動く、他の植物が生育できないような厳しい環境に孤高を保って咲く花姿から、コマクサは「高山植物の女王」と呼ばれているが、いつ見ても気高さを感じる。吹き飛ばされないためにしたたかに、地下には50~100cmの根を張る。日本では大雪山のみに生息する天然記念物のウスバキチョウは、幼虫の時コマクサを食草として足掛け3年で成虫になるのだが、蝶になると卵は産むがコマクサに吸蜜はしない。

こちらの岩陰に咲く小さな白い花は、エゾイワツメクサ(Stellaria pterosperma)である。北海道中央高地の高山帯の砂礫地や岩礫地に特産する多年草で、高さは10~15cmになる。葉の縁全体に細かい毛がある。「爪草」とは、葉の形が鳥の爪に似ることによる。花弁は5枚だが、先が深く2つに裂けているので10枚に見える。

イワブクロの群落もまた見かけた。イワブクロの名は、花が袋状になって、岩場に咲くことに由来する。

ほとんど枯れているエゾツツジの群落も見つけた。高さ15cmほどだが、7月中旬ならば一面真っ赤に咲いていたことだろう。草のように見えるが、れっきとした低木である。

ようやく、山頂間近まで戻ってきたら、霧がどんどん晴れ上がって、大雪山の山々が見晴らせるようになってきた。谷向こうの低い桂月岳の上には、丸くて大きい凌雲岳(2,125m)がどっしりと構えていて、その右手には上川岳(1,884m)が小さく見え、左手奥には北鎮岳が見える。

雪田の多い右手の北鎮岳(2,244m)は、大雪山第二位の高峰である。その左の一番低い鞍部の右が中岳(2,113m)で、鞍部の左手の大きな山が間宮岳(2,185m)である。

雪田が最も多い右奥に見える間宮岳の、左手前に大きく黒く見える山が北海岳(2,149m)で、その間の彼方にわずかに頭を出しているのが後旭岳(2,216m)で、最高峰の旭岳(2,290m)は、その右の間宮岳に隠れてよく見えない。黒岳から北鎮岳、間宮岳、北海岳に囲まれた低地が、御鉢平と呼ばれる旧噴火口カルデラであり、有毒ガスが出るので立ち入り禁止である。黒岳から北鎮岳を経由して稜線を旭岳まで縦走するのが、大雪山で最も好まれる銀座コースである。黒い北海岳の左の肩の奥にわずかに垣間見えるのは、白雲岳(2,230m)であろう。

北海岳の左は雲が厚く覆っていてよく見えない。一番左の尖った山が烏帽子岳(2,072m)で、その間の奥に白雲岳や、忠別岳、五色岳、トムラウシ山へと続く大縦走路があるのだが、もちろん見えない。

最初に山頂に着いた時に晴れていたなら、これらの大雪山の山々を見ながら勇んで石室まで歩いただろうに、残念でならない。しかし、またもや雲がかかってきたので、一瞬でも雄大な景色が見えたことに満足するしかない。