半坪ビオトープの日記

黒岳石室への道


霧がかかって見晴らせないが、開けているはずの山頂から、大雪山では数少ない避難小屋である黒岳石室に向って歩き始める。ゴツゴツした頂稜部の溶岩台地では、黒岳山頂までの急な登山道で見かけた花とすっかり違った植物分布が見られる。足下の小さな花は、チシマツガザクラ(Bryanthus gmelinii)である。北海道と八甲田山早池峰山の高山帯の礫地や岩壁に生える常緑小低木で、高さは5cmほどで、茎は地を這いマット状に広がる。葉は革質で密に互生し、長さ3~4mm、幅1mmの線形である。花序は直立し、枝先に淡紅色の花を5~8個ほど咲かせる。花冠は径約7mmで、基部まで4裂する。ツツジ科だが、1属1種の特殊な植物である。
右下に見える赤茶色のさく果は、ミネズオウ(Loiseleuria procumbens)の果実である。北海道と本州中部地方以北の高山帯の岩礫地や岩壁に生える常緑所低木で、高さは3~6cmになる。花は赤みを帯びた白色で、花期が6~7月と早く、既に花は終わっている。

こちらの小さなタデ科の花は、チシマヒメイワタデ(Pleuropteropyrum ajanense)という。北海道の礼文島利尻山大雪山、夕張岳、羊蹄山などの高山帯の砂礫地に生える雌雄同株の多年草で、高さは10~30cmになる。葉は4cm前後の披針形で、柄はない。花は白色〜淡紅紫色で、花被は3~4mmで5深裂する。

この小さなアザミに似た花は、トウヒレン属のウスユキトウヒレン(Saussurea yanagisawae)である。北海道の大雪山十勝岳芦別岳、羊蹄山などの高山帯の砂礫地に特産する多年草で、高さは5~15cmになる。全体にクモ毛や縮毛があり、白っぽく見える。葉は披針形または長楕円状披針形で、先は鋭く尖る。毛の種類や量、葉の形などに変化が多く、葉の裏面に白い綿毛が密生するユキバトウヒレンなど近似種も多い。

岩陰でイワギキョウがたくさん咲いていた。サマニヨモギも隠れるように咲いているが、その後ろに岩陰にへばりつくような木が生えている。黒岳登山道でもよく見かけた、ミヤマハンノキ(Alnus crispa ssp. maximowiczii)である。北海道と本州中部地方以北、大山の亜高山帯〜高山帯下部に生える雌雄同株の落葉低木〜小高木で、高さはふつう5mになるが、高山帯では低木状になる。山頂近くでは、30cmほどになって岩陰に根を下ろすこともある。

そろそろ石室が近いと思ったが、霧が深くて何も見えないのに石室まで下っても、桂月岳(1,938m)往復も諦めてすぐ戻るのならば、ここで引き返した方がよいと考え、戻り始めた。
ここにもサマニヨモギの大株があった。大雪山では、花期にも白い絹毛が残るシロサマニヨモギ(A. arctica v. villosa)があり、近似種とされる。絹毛がどこまで残っているのか判断が難しい。

こちらの岩陰には、メアカンキンバイ(Potentilla miyabei)が咲いていた。北海道の中央高地、羅臼岳雌阿寒岳羊蹄山などの高山帯の砂礫地に生える多年草で、高さは3~10cmになる。葉は灰色がかった緑色で、3小葉に分かれる。さらにその先端は大きく3裂する。

山頂に戻り始めてしばらく歩いた頃、ようやく少し霧が晴れてきた。石室への道を振り返ってみたが、もう一度向う気にはなれない。

その右手に見えてきた山が、多分、桂月岳であろう。天気がよければ登ったのだが、午後は雷雨があるかもしれないので、やはり早めに下山する方がよかろう。