半坪ビオトープの日記

フクジュソウ

昨日、目黒の自然教育園を散策しフクジュソウを見つけた。陰暦の新春に花を開くところから、新年を祝うめでたい花として好まれてきた。江戸時代には二百種を数えたという園芸品種も大正時代には絶滅の危機に瀕したが、現在は埼玉県の中村家に数十種が伝えられている。自生地は日本、朝鮮半島中国東北部、シベリア東部で、学名(Adonis amurensis) はアムール河に由来する。漢字では福寿草と表記し、別名には元旦草、賀正草、朔日草、福神草、報春花などがあるが、どうも堅苦しくてすわりが悪い。強心利尿作用のある強毒性のアドニトキシン(シマリン)を含む毒草とされ、蕾をフキノトウと間違えないよう注意が必要なので、古くから名前があるはずだろう。しかし文献には江戸時代以降の記載しかなく、その江戸時代末期には爆発的な人気を博した。毒草からめでたい花に評価ががらっと変わったので名前が変わったのではないかと、個人的には推測する。
属名のアドニスは、ギリシャ神話の少年の名に由来する。美の女神アフロディテが愛するアドニスは、ある日イノシシ狩りでイノシシの牙に刺され命を落とす。悲しむアフロディテアドニスの血からこの花を咲かせたという。実際、ヨーロッパのフクジュソウは赤いものが多い。ナツザキフクジュソウ(aestivalis)やアキザキフクジュソウ(annua)と紹介されている花は血のように深紅の一重で、日本の花とまるで違う。ヨウシュフクジュソウ(vernalis)は黄色で似ているが。
英名Pheasan's-eyeはキジの目を意味し、花弁の基部が黒や青でキジの目のように見えるからという。
アイヌの人たちにはクナウ・ノンノというフクジュソウの物語がある。雷神カンナカムイの末娘である女神クナウは、嫌いなモグラの神との結婚を父に無理やり決められてしまう。嫁入り当日に逃げたクナウは、父の怒りに触れ野に咲く花に変えられてしまう。それがフクジュソウで、クナウ・ノンノ(母の花)という。ほかにも春の魚イトウの到来を告げる花ともいわれる。
また、二部谷の萱野茂によると、アイヌの人たちは大切なものを「フクジュソウの花のしずくの中から掘り出すような宝もの」と呼んだという。
冬の雪の中から頭をもたげて、太陽の光をいっぱいに受けようと花びらを広げる姿に、純朴な心を読み取ろうとするのは自然ななりゆきといえよう。
福寿草遺産といふは蔵書のみ  高浜虚子