こちらの白い装飾花が目立つ花は、よく見かけるムシカリ(オオカメノキ)ではなく、ヤブデマリの地域変種、ケナシヤブデマリ(Viburnum plicatum var. glabrum)という落葉小高木である。ムシカリ(オオカメノキ)の装飾花が5枚はっきり認められるのに対し、ケナシヤブデマリでは5枚のうち1枚が極めて小さく4枚に見える。ヤブデマリは関東以西の本州、四国、九州に生育するが、ケナシヤブデマリは北陸から東北地方の日本海側に生育する。葉脈の幅がムシカリの葉よりケナシヤブデマリの葉の方が並行である。
雄国沼にはニッコウキスゲやレンゲツツジの他にも多くの花が咲いている。ワタスゲやタテヤマリンドウは6月初旬が見頃のようだが、まだあちこちで咲いている。タテヤマリンドウ(Gentiana thunbergia var. minor)は、ハルリンドウの高山型変種で、本州中部以北と北海道の高山の湿地に生える二年草。花は陽が当たっている時だけ開き、曇天・雨天時は閉じる。花茎の先に一つ小さな淡青紫色の花をつける。
ニッコウキスゲ(Hemerocallis middendorffii var. esculenta)は、変種名esculentaが「食用の」という意味で、同属のヤブカンゾウなどとともに食用とされた。新芽を食べると、ヤブカンゾウより甘いという。尾瀬の大江湿原、日光霧降高原など多くの群生地が知られるが、東北地方北部や北海道では海岸沿いの平地に普通に生えている。地方により変異があり、北海道のものはエゾゼンテイカという。
雄国沼の遊歩道は木道を敷いた湿原から離れて、休憩舎に向かって林の中を北に進む。途中、道端でアマドコロの花が咲いているのを見つけた。アマドコロ(Polygonatum odoratum var. pluriflorum)は、日本全国の山野に生える多年草で、和名は、地下茎がヤマノイモ科のトコロに似て、甘みがあることによる。春の若芽や地下茎には甘みがあり、山菜として食用にされる。漢方では滋養強壮剤として、かつては民間薬で利用された。似た姿の植物にナルコユリやユキザサ、ホウチャクソウがあるが、ホウチャクソウは有毒なので注意が必要である。
ニッコウキスゲ(Hemerocallis middendorffii var. esculenta)は、別名、ゼンテイカ(禅庭花)とも呼ばれる、キスゲ亜種の多年草。本州中部地方以北や北海道の高原、海岸近くの草原に自生する。花弁は6枚に見えるが、うち3枚は萼が変化したもので実際は3枚花弁である。朝開花すると夕方には萎む一日花であるが、関東の低地型のムサシノキスゲは翌日まで開花する。