10日ほど前に福島県北塩原村(裏磐梯)にある雄国沼湿原を訪れた。雄国沼は正面の猫魔ヶ岳(1,404m)や雄国山(1,271m)、古城が峰、厩岳山などを外輪山にもつ、猫魔火山のカルデラにある湖沼である。以前は陥没カルデラに水が溜まったカルデラ湖と考えられていたが、現在では、古猫魔火山が約50万年前に北東方向へ山体崩壊することで爆裂カルデラを生じ、その内部に後の火山活動で猫魔ヶ岳峰の山体が形成され、そこにできた凹地に水が溜まって雄国沼が生まれたと考えられている。ニッコウキスゲの群生地としてよく知られ、最盛期には車の乗り入れが禁止され、喜多方市の雄国萩平駐車場から金沢峠までシャトルバスが運行されている。金沢峠からは猫魔ヶ岳や雄国山などの外輪山及び雄国沼湿原が見渡せる。
正面の猫魔ヶ岳は金沢峠から見て東南東に位置し、そこから左に稜線沿いに目を転じると、一番低くなっているところが雄子沢川が流れ出る場所となり、沼の左端辺りに遊歩道の終点となる休憩舎がある。中央に見える沼に突き出た半島に行ってみたいが、歩いていくことはできない。
こちらの小さな花は、ヤエムグラ属のクルマバソウ(Galium odorata)という多年草。北海道と本州の林内に自生する。花冠は4裂し卵形となる。葉は6〜10個が車輪のように輪生し、狭長楕円形または倒披針形で先は鋭頭。乾燥させると淡緑色になり、クマリンの芳香がある。欧州ではウッドラフと呼ばれ、ハーブおよび民間薬として利用される。ドイツなどでは、ビール、ジュースあるいはアイスクリームやケーキなどの菓子類の風味付けにも使われる。
山道を降り切ると湿地帯の平原が広がるが、沼にはまだ辿り着かない。右手(南東)に進むと金沢峠から続く外輪山の麓には、ニッコウキスゲとレンゲツツジの群生が広がり、オレンジと黄色の競演が素晴らしい。これは10日前の様子だが、昨日のニュースでは全面黄色く彩られていた。
ニッコウキスゲの面積あたりの生息株数は、なんと尾瀬を上回り、日本一といわれる「雄国沼湿原」。特にニッコウキスゲが咲き誇る6月下旬から7月初旬には、湿原一面が真っ黄色の絨毯を敷き詰めたように広がるという。まさに「天空の花園」になるのだが、まだ少し早かったようだ。
ニッコウキスゲ(Hemerocallis middendorffii var. esculenta)は、別名、ゼンテイカ(禅庭花)とも呼ばれる、キスゲ亜種の多年草。本州中部地方以北や北海道の高原、海岸近くの草原に自生する。花弁は6枚に見えるが、うち3枚は萼が変化したもので実際は3枚花弁である。朝開花すると夕方には萎む一日花であるが、関東の低地型のムサシノキスゲは翌日まで開花する。
レンゲツツジ(Rhododendron japonicum)は、日本固有種で、北海道南部から九州にかけて主に高原に自生している。全木に痙攣毒を含む有毒植物で、牛馬も食べない。蜜にも毒があるため、花の蜜も危険で、養蜂業者は自生地での蜂蜜採取を避けたり、開花期を避けたりしている。