5月上旬に春の花を探しに赤城山周辺を訪れた。大沼の南の湿原、覚満淵を鳥居峠から見晴らす。
赤城山は、春を告げるアカヤシオの花が咲くので有名だが、中でも手っ取り早いのがこの鳥居峠だ。駐車場の目の前の尾根にアカヤシオ(Rhododendron pentaphyllum var. nikoense)が咲いている。別名アカギツツジとも呼ばれる。
その後、赤城山の北麓を流れる片品川にかかる吹割の滝に立ち寄ったが、遊歩道の下手には豪快な鱒飛の滝がある。高さ15m、幅6m、遡上してきた鱒がこの滝を越えられなかったという。
般若岩と呼ばれる断崖絶壁の手前でも、雪解け水で増量された片品川の激流が渓谷を勢いよく流れ下る。
吹割の滝は、900万年前に起こった火山の噴火による大規模な火砕流が冷固した溶結凝灰岩が侵食されてできたV字谷にかかり、三方から河川が流れ落ちる姿から東洋のナイアガラとも称される。高さ7m、幅30mで、国の天然記念物及び名勝に指定されている。だが、迫力からいうと鱒飛の滝の方が勝るように見える。
初日は尾瀬の入口にある鎌田温泉に泊まり、翌朝、尾瀬沼への登山口の脇、大清水湿原で水芭蕉を見て回った。尾瀬の水芭蕉の見頃は6月上旬だが、この時期にはまだ雪が多くて早すぎる。道端で水芭蕉を見ることができるこの湿原は、たいへん助かる。朝露に濡れた姿は心洗われる思いだ。
こちらの暗紫褐色の花は、サトイモ科ザゼンソウ属のザゼンソウ(Symplocarpus renifolius)という多年草。水芭蕉に似て淡褐色の肉穂花序を包むように花弁に見える仏炎苞の色が特異である。その姿を座禅を組んだ達磨太子の姿に見立てて、ザゼンソウの名がつき、別名ダルマソウという。中の肉穂花序は悪臭を放ちながら発熱する特徴があり、雌蕊が先熟する雌雄異熟の両性花である。アジア北東部と北米に分布する。
同じサトイモ科のミズバショウ(Lysichiton camtschatcenne)はミズバショウ属だが、ザゼンソウと同じく雪解け時期に咲き、アジア北東部に分布する。日本では中部地方以北の本州の日本海側および北海道の山地の湿地に生育する。
こちらの黄色い花は、キンポウゲ科のリュウキンカ(立金花、Caltha palustris var. nipponica)という多年草。本州、九州の湿地に生育し、水芭蕉の群生地でもよく見かける。花弁に見えるのは萼片で普通は5枚、このようにそれより多い場合もある。
大清水湿原から下って、今度は片品温泉と鎌田温泉の間にある越本水芭蕉の森に立ち寄る。駐車場から少し上った森の斜面、0.75haの湿地に約5,000株の水芭蕉が群生する。遊歩道の木道が整備されていて助かる。平たい湿原とは違って、緩やかでも斜面なので水の流れに沿って咲くミズバショウの姿が立体的に見えるところが良い。
ミズバショウはここでも朝露に濡れて、純白の花弁に見える仏炎苞が清々しい。仏炎苞は葉の変形したものである。中の肉穂花序はまだ薄緑色であるが、雌蕊だけが開花している。雄蕊が開花すると肉穂花序はクリーム色になる。受粉後、花序は大きく成長し緑色の肉質果穂になる。葉は長さ80cm、幅30cmと大きくなる。
林の中でシュロソウ科のエンレイソウ(Trillium smallii)が咲いていた。大きな3枚の葉の真ん中に紫褐色の花を一つつける。花弁に見えるのは萼で、この仲間では唯一花弁がない種である。和名の延齢草は、腹痛や食当たりに胃腸薬として乾燥した根を煎じて飲む、薬草として使われてきたことに由来する。