トンネルの中の黒部湖駅(標高1,455m)から黒部平駅(1,828m)まで、黒部ケーブルカーで上ること5分。日本で唯一の全線地下式ケーブルカーである。
黒部平駅の外には高山植物観察園があるが、霧がかかっているのですぐに大観峰へのロープウェイに乗り込む。この立山ロープウェイは間に支柱がなく、運行距離として日本一の1.7kmをワイヤーだけで結んでいて、約7分の空中トリップが楽しめるという。また、紅葉の時期には緑、紅葉の赤黄色、積雪の白と三段紅葉が見られることで知られる。
見る間に紅葉の美しい山麓が枯れ木の山となり、霧の中から積雪が現れて、10月中旬ならではの醍醐味が味わえた。ちょうどこの日未明に初雪が積もったのだ。
大観峰(2,316m)は霧の中で、そこから室堂(2,450m)までは、立山トンネルトロリーバスに乗る。立山の主峰、雄山(3,003m)の直下を通り抜ける、日本唯一のトロリーバス路線である。それゆえ室堂は、日本最高所の鉄道駅ということになる。
室堂ターミナルの外に出ると、この日の朝記録された室堂平の今年初冠雪がまだ融けずに残っていた。残念ながら辺りは靄が立ち込め、立山連峰を見渡すことはできなかった。
室堂ターミナルから今日の宿泊地、みくりが池温泉までは約15分で、道は整備されているが積雪は5cmほどあった。
標高2,405mにあるミクリガ池は、室堂平で最大・最深の池であり、立山火山の火口湖である。立山信仰の中では、ミクリガ池は立山地獄の中の「八寒地獄」とされた。反面、「ミクリ」とは「御厨」と書き、「神の厨房」という意味を持つ。この池の水が立山権現に捧げられ、この水を使って立山権現に捧げる料理が作られた。修験道に基づく山岳信仰では聖地、神水とされた山や池が、浄土信仰に付随する浄土と対極の地獄と関連づけられる中で、全く反対の位置付けをされたと考えられている。
みくりが池温泉(2,410m)は、旅館と山小屋の要素を兼ね備えていて、個室と相部屋がともにある。内湯のみで露天風呂はないが、日本最高所の温泉宿とされる。日本最高所の源泉地帯とされる地獄谷(2,300m)からの引湯で、源泉掛け流しの天然温泉。白濁で硫黄の香り豊かな単純酸性泉の湯が疲れを優しく癒してくれる。湯上がりに窓の外を眺めると、富山平野の西に沈む太陽が分厚い雲の下から顔を覗かせ、眩しい夕陽の情景が繰り広げられていた。
右端の雄山(3,003m)、大汝山(3,015m)、富士ノ折立(2,999m)の三山を総称して立山と呼ぶが、その左の真砂岳(2,861m)、別山(2,874m)まで、いつの間にか空が晴れ渡り、白雪を抱いて赤い夕陽に輝いて居並ぶ姿はなんとも神々しい限りであった。
宿のすぐ北東にある地獄谷から湧き上がる白い噴煙の向こうには、奥大日岳(2,611m)の大きな山容が望まれる。
地獄谷の先に見える富山平野の彼方にはかすかに能登半島が見え、左手の太陽が沈む所は能登半島の付け根辺りの丘陵と思われる。
太陽が沈み込む一瞬、辺りの空が一段と輝きを増すように感じた。分厚い雲が夕焼け空のバリエーションに一役買っているようだが、滅多にお目にかかれる光景ではないなと感じ入った。