半坪ビオトープの日記

三重塔、那智の滝


三重塔に向かって進むと、ミツマタの花が満開に咲いていた。

ジンチョウゲ科に属すミツマタ(Edgeworthia chrysantha)は、中国中南部・ヒマラヤ地方が原産地とされる落葉低木で、3月から4月にかけて、三つ又に分かれた枝先に黄色い花を咲かせる。三椏、三又、三枝とも表記する。古代には「サキクサ(三枝)の」は「三つ」に係る枕言葉だったが、春一番に咲くゆえに「先草(さきくさ)」とも、縁起の良い吉兆の草のゆえに「幸草(さきくさ)」ともいわれる。万葉集には次の歌がある。
「春さればまづ三枝(さきくさ)の幸(さき)くあれば 後にも逢はむ な恋ひそ吾妹(わぎも)」(10巻-1895)

一段下の境内には尊勝院や宿坊があるが、三重塔はさらに一段下にある。西に回り込んで見上げる三重塔に上がれば、そこから那智の滝を望むことができる。この塔は天正9年(1581)に戦国領主や社家の対立に基づく戦乱により焼失したものを、昭和47年(1972)400年ぶりに再建したものである。高さは25m、辺の長さ12m、各層は格調高い格天井と板壁画で飾られている。

展望台を兼ねた三層目に上ると、飛瀧(ひろう)権現の本地仏である千手観音菩薩像が安置されている。

那智大滝は落差133mに達し、総合落差では日本12位だが、一段の滝としては落差日本一位である。華厳の滝袋田の滝と共に日本三名瀑に数えられ、国の名勝に指定されている。

先ほどの展望台からも那智の滝の全貌が見渡せたが、この三重塔からは高いところから滝つぼまではっきり見える。

二層目には尼子十勇士、山中鹿之介の持仏堂の本尊であった阿弥陀如来像が安置されている。

一層目からはちょうど咲き始めた桜の花と那智の滝を一緒に収めることができる。

滝口の上に注連縄が貼られているが、この滝は滝壺近くにある飛瀧神社御神体とされている。御神体が滝そのものなので拝殿も本殿もなく飛瀧権現と呼ばれていたが、明治の神仏分離以降、熊野那智大社の別宮として飛瀧神社となった。那智山の郷社であったが、昭和12年(1937)に熊野那智大社の摂社になったという。祭神は大己貴命を祀っている。

一層目には飛瀧権現の不動堂に祀られていた不動明王像が安置されている。

三重塔の奥から那智の滝の滝壺に近い飛瀧神社へ下って行く道もあるが、時間の都合で元来た那智大社の表参道に戻る。境内からは東南に那智の山並みが見える。那智滝の東に広がる社有林は、那智原始林と呼ばれ、国の天然記念物に指定されている。イスノキ、シイ、ウラジロガシなど暖地性の広葉樹を中心に温帯性広葉樹や針葉樹もあり、本州屈指の混交林となっている。群生する植物は150種以上ともいわれ、ナゴラン、キイセンニンソウなど12種の希少な植物もある。

信徒会館の左手に忘れられたように山門が建っている。昔、大門坂の石畳を上りきったところにあった大門を、ここに移設して青岸渡寺の山門にしたという。現在の門は昭和8年(1933)に再建されたものである。ここに安置されている高さ3mを超える鎌倉時代後期作の金剛力士像は、湛慶の作ともいわれる。