半坪ビオトープの日記

老神温泉、吹割の滝


昨秋は例年に比べて数多く紅葉狩りに出かけた。まず初めはいつもの遊び友達と11月初旬に群馬県沼田市の老神温泉を訪れた。赤城山の北麓、片品川沿いに温泉街が広がる老神温泉には、開湯伝説がいくつもある。その昔、赤城山の神である大蛇と、日光の二荒山(男体山)の神である大ムカデが神域をかけて戦っていた。日光の戦場ヶ原の戦いで、日光のムカデ神の軍勢が放った矢に大蛇神が負傷し、後の老神温泉付近まで逃げてきた。ここで大蛇神が体に刺さっていた矢を抜いて地面に刺すと、暖かい湯が湧き出した。その湯に浸かり傷が癒えた大蛇神は、力が漲りムカデ神を見事に日光へ追い返した。そこで「追神」温泉と命名され、後に転じて「老神」温泉となったという。

春から秋にかけては名物の朝市が開かれ、秋には老神渓谷のライトアップが催される。まだ紅葉が始まったばかりの11月初旬だったが、内楽橋より光に照らされた老神渓谷を眺めると、幻想的な光景にしばし見とれてしまった。

老神温泉から1.5kmほど上流の片品川に、日本の滝百選に選ばれている吹割の滝がある。土産物屋の並ぶ遊歩道に沿って、片品渓谷(吹割渓谷)の水際まで下ると、まず現れるのは鱒飛の滝である。高さ8m、幅6mの滝で、遡上してきた鱒が越えることができずに止まってしまうことから、かつては鱒止の滝と呼ばれていた。

遊歩道を進むと、獅子岩とか般若岩と呼ばれる奇岩・岩壁が次々と現れ、赤く色付いた紅葉もちらほらと見えるようになる。

吹割の滝は、高さ7m、幅30m余に及び、国の天然記念物に指定されている。この滝は900万年前に起こった火山の噴火による大規模な火砕流が冷固した溶結凝灰岩が、川床上を流れる片品川の清流によって岩質の柔らかい部分を侵食され、多数の割れ目を生じ、あたかも巨大な岩を吹き割れたように見えることから、その名が生まれた。

大きく抉られたV字谷に向かって、三方から河川が流れ落ちる姿から、「東洋のナイヤガラ」とも呼ばれる。水の侵食により1年間で約7cm上流に向かって遡行しているという。

昔から吹割の滝の滝壺は龍宮に通じていると言われ、村で祝儀がある度に滝壺にお願いの手紙を投げ入れて龍宮からお椀やお膳を借りていた。ところがあるとき、一組だけ返し忘れてしまい、それ以来二度と膳椀を貸してもらえなくなったという。東北から九州までに広く分布する「椀貸し伝説」の一つで、貸借の場所は淵、池、井戸、岩、塚など異郷や他界との接点であり、膳椀の持ち主はそこに住む龍神、乙姫、河童、狐など霊威的な存在である。由来としては、木製食器を作りながら各地を巡った「木地屋」の存在が想定されている。

V字谷の正面から滝壺を眺めると、水しぶきを上げて轟々と落下する様は、吸い込まれるように壮観である。滝壺近くに小さく人影が認められ、吹割の滝の大きさがよくわかる。