半坪ビオトープの日記

下山開始


男岳の下にある五百羅漢の岩場が修験者の修行の場所で、正面の南西に伸びる長い金十郎長根が左に曲がって輪を描いて横岳まで戻って囲んだところが、駒ヶ岳の南部カルデラ外輪山である。金十郎長根の左にある黒い固まりが、女岳が昭和45 年(1970)から翌年にかけて噴出した溶岩流である。右上彼方には田沢湖が見える。ちなみに駒ヶ岳の名は、文政7年(1824)佐竹北家藩主・義文が残した紀行文「養老紀行」の中で、「東に駒がたけといえる秀出あり、暮春の雪、駒の形に残れる名なるべし」と由来を記している。今でも、4月下旬から5月上旬にかけて、男岳の錫杖頭と呼ばれる岩塊から金十郎長根の東南斜面にかけて馬の雪形が現れるという。

南の方角、金十郎長根の左には横長根が続くが、そこに姿見の池が認められる。池の左に見える山は女岳である。池の後方に見える山は、和賀岳(1440m)であろう。

東には馬の背と横岳が見え、その左の麓に阿弥陀池が横たわっている。

山頂の雄大な展望をしばし楽しんだ後、男岳の下山を開始する。すると目の前にキアゲハが止まった。特に夏型のキアゲハの雄は、山頂の占有活動(Hilltopping)が顕著なのがよく知られている。食草であるセリ科の植物は山裾にいくらでも生えているが、広大な山裾で相手を捜すのは容易なことではない。そこで上昇気流に乗って集まりやすい山頂で、縄張りを張りつつ辛抱強く雌を待ち受けるようになったと考えられている。

下りの尾根道でもミヤマホツツジがたくさん咲いていた。日本各地の山地に生える同じホツツジ属のホツツジは、ミヤマホツツジと同じく花冠が3枚に別れて反り返るが、花柱(雌しべ)は弓状には曲がらない。どちらも有毒植物で、花粉や蜜に毒があるので蜂蜜に混入して食中毒を引き起こすことも稀にあるそうだ。

よく目立つトウゲブキもまた見かけた。エゾタカラコウの別名があるようにメタカラコウ属だが、同属のオタカラコウやメタカラコウ、ハンカイソウなどが沼沢地に生育するのに対し、その名の通り山の峠や斜面の上部に多く生息する。

ミヤマホツツジの近くで、シラタマノキ属のイワハゼ(Gaultheria adenothrix)が赤い実をたくさんつけているのを見かけた。北海道と本州中部地方以北および四国の山地帯〜高山帯下部の草地や礫地に生える常緑小低木で、高さは10~30cmになる。花期は5〜7月。葉腋から出す花柄の先に白い鐘形の花を下向きにつける。花後、萼が成長して果実を包み込み、赤い楕円形の偽果を上向きにつける。この偽果は食用になり、甘味があって美味しい。シラタマノキの実が白いのに対し実が赤いので、あるいはアカモモ(赤桃)が訛って、アカモノとも呼ばれる。

登る時には気がつかなかった、可憐な姿のミヤマダイモンジソウ(Saxifraga fortune var. alpina)を岩場の陰で見つけた。北海道と本州中部地方以北の高山帯の岩隙や斜面の草地に生える多年草で、高さは5~20cmになる。根生葉は掌状に浅裂ないし中裂し、裂片には粗い鋸歯がある。花期は7〜8月。茎先に小さな白い花をつける。花弁は5枚で、下の2枚が長く、全体が「大」の字に見える。ダイモンジソウの高山型変種で、花色や葉の形で変異が多い。