半坪ビオトープの日記

乗鞍畳平から富士見岳へ

乗鞍畳平から富士見岳を見る
昨夏の奈良古墳巡りの記事が長く続いたので、閑話休題ということで、今夏の乗鞍・上高地散策について記す。ここ数年、老齢と闘病のためすっかり足腰が弱ってしまい、趣味の山歩きが満足にできなくなっている。バスで行ける標高日本一の乗鞍岳畳平(2702m)には何回か来たことがあるが、山頂の剣ヶ峰(3026m)に登ったのはかなり昔のこととなった。今回は目の前のお花畑の向こうに聳える富士見岳(2817m)に登る予定だ。右手の山は不動岳(2875m)、南方向にある鞍部の右手に見えるのが摩利支天岳(2873m)だが、稜線の向こうにある山頂の剣ヶ峰は残念ながらここからは見えない。

イワギキョウ
眼下のお花畑に下ってからまっすぐ鞍部に向かって登って行くのだが、下り始めてすぐに、道端に青紫色の可憐な花が咲いていた。キキョウ科ホタルブクロ属のイワギキョウ(Campanula lasiocarpa)である。北海道と本州中部以北の高山帯の砂礫地や岩壁に生える多年草。葉は薄く、縁には浅い鋸歯がある。花茎は高さ5〜15cm。花はチシマギキョウより青みの強いコバルトブルーで、斜め上向きに咲く。花冠は長さ2〜2.5cmで無毛。萼には粗毛があり、萼片は線形で縁に歯牙がある。よく似たチシマギキョウの花には繊毛が生えているが本種には生えていない。

カヤクグリ
お花畑から登って広い砂利の車道に合流した所の道標の上に、小さな赤褐色の鳥が飛んで来て止まった。イワヒバリ科のカヤクグリ(Prunella rubida)という漂鳥である。夏季に四国や本州中部以北の亜高山帯〜高山帯で繁殖し、冬季になると低地や本州、四国、九州の暖地へ南下して越冬する。スズメほどの大きさで、食性は昆虫、草や木の種子などを食べる雑食性である。

不消ヶ池
広い車道からは右手に不消ヶ池が見える。真夏でも雪が消えないので名付けられたが、今年はすでに雪は溶けていた。不消ヶ池の向こうには鞍部から魔利支天岳に向かう広い車道が見え、魔利支天岳の裏手に肩の小屋がある。肩の小屋から乗鞍頂上の剣ヶ峰までは1時間ほどかかる。

乗鞍岳山頂・剣ヶ峰の勇姿
ようやく鞍部に近づくとその先に乗鞍岳山頂の剣ヶ峰の勇姿が、次々と流れる雲の合間から認められた。

剣ヶ峰(3026m)
剣ヶ峰(3026m)には、古くから登山者や巡礼者に崇拝されてきた乗鞍本宮頂上本社がある。800年以上前から霊場としての歴史があるという。

鞍部から富士見岳を見る
ようやく富士見岳と魔利支天岳との鞍部に辿り着いた。しかし先ほどから息切れが酷くなり、脈拍も150前後と高山病の症状が出てきた。あと10分ほど登れば予定の富士見岳(2817m)山頂なのだが、大事を取って残念ながらこの鞍部で引き返すことにした。

トウヤクリンドウ
富士見岳北面の広く緩い車道をゆっくりと下り始めると、道端に白っぽいリンドウが咲いていた。リンドウ属のトウヤクリンドウ(Gentiana algida)という多年草高山植物である。北アジアから北米、日本では北海道から中部以北の高山帯の砂礫地や草地に生える。茎葉は対生し、花は淡い黄色で、花弁には緑色の斑点がある。和名のトウヤク(投薬)は、薬草になるセンブリのことで、トウヤクリンドウも胃薬になる。

コマクサ
この可憐な花は、ケシ科ケマンソウ亜科コマクサ属のコマクサ(Dicentra peregrina)という多年生草本高山植物で、千島列島・樺太カムチャッカ半島・シベリア東部の東北アジアと、日本の北海道から中部地方の高山帯の砂礫地帯に分布している。

富士見岳北面のハイマツ帯
富士見岳北面には背の低い常緑針葉樹のハイマツが、地を這うように広がっている。ハイマツ帯が切れた道端の砂礫地に、コマクサの群落があちこちに見られた。

高山植物の女王」コマクサ
コマクサは、その花の美しさと、常に砂礫が動き、他の植物が生育できないような厳しい環境に生育することから「高山植物の女王」と呼ばれて親しまれている。昔は花の美しさより薬草としての価値が高く、古くから腹痛の妙薬として知られる。御嶽山乗鞍岳など多くの山で採り尽くされ、近年、復元された所が多く、この道端の群落もその証拠の一つであろう。

不消ヶ池
不動岳東麓の不消ヶ池も帰りがけに見ると、行きに見た時とは違った風情が感じられる。

ウメバチソウ
この小さく白い花は、ウメバチソウ属のコウメバチソウParnassia palustris var.tenuis)という高山植物で、ウメバチソウの高山型である。北海道から中部地方以北の高山帯に分布する。母種のウメバチソウとの違いは、コウメバチソウの仮雄蕊が7-11裂するのに対し、ウメバチソウ12-22裂していることだ。

畳平と恵比寿岳(2831m)
左手(西)から前方(北)を眺めると、お花畑の右上に畳平が見え、その左上に恵比寿岳(2831m)が聳えているのが分かる。

ミヤマアキノキリンソウ
こちらの黄色い花は、アキノキリンソウ属のミヤマアキノキリンソウSolidago virgaurea subsp. leiocarpa)という多年草高山植物である。東北アジアおよび日本の北海道と本州中部以北の亜高山帯から高山帯の草地、砂礫地に生育する。別名コガネギク。アキノキリンソウの高山型である。

畳平の背後の恵比寿岳と魔王岳
広い砂利の車道は富士見岳と大黒岳(2772m)との鞍部で折り返し、鶴ヶ池の左手を通って畳平に戻る。畳平の背後には恵比寿岳が聳え、右手には魔王岳(2763m)が見える。畳平周辺ではこの魔王岳が最も近く、なおかつ標高が低いので、また畳平に来ることがあるならこの山には登ってみたい。そのためには体力回復が最低限の課題であるけれども、ともかく久しぶりに爽やかな山の空気を味わい、高山植物もいくつか見ることができてよかった。