万葉集にはユリの長歌一首、短歌九首が載っている。いくつか以下に挙げてみる。
道の辺の草深百合の花咲(はなえみ)に 咲みしがからに妻といふべしや (巻七-1257)
夏の野の繁みに咲ける姫百合の 知らえぬ恋は苦しきものそ (巻七-1500、大伴坂上郎女)
吾妹子が家の垣内の小百合花 後(ゆり)と言へるは不欲(いな)とふに似る (巻七-1503、紀朝臣豊河)
筑波嶺のさ百合の花の夜床(ゆどこ)にも 愛(かな)しけ妹ぞ昼も愛しけ (巻二十一-4369、那賀郡大舎人部千文)
さ百合花後(ゆり)も逢はむと下延(は)ふる 心しなくは今日も経めやも (巻十八-4115、大伴家持)
ほとんどが美しい百合の花に寄せての恋歌である。また、3番目と5番目にあるとおり、百合が後(ゆり)と同音なのをかけた歌が多い。
万葉集に載るユリの花は古くから日本の野山に自生するヤマユリ、ササユリ、ヒメユリ、オニユリ、スカシユリとされている。
さて、この花はカノコユリ系のコオニユリ(Lilium leichtlinii var. maximowiczii) で、日本全国と中国北部〜シベリア沿海州南部に自生する。
オニユリよりやや小さいがよく似ている。球芽(むかご)があるかないかで見分けるのがよい。コオニユリにはつかない。
オニユリよりやや早めに咲き出す。