半坪ビオトープの日記

宇検村、カンツメの碑

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カンツメの碑

奄美大島南端の瀬戸内町から西隣の宇検村へ山越えする峠に「カンツメの碑」がある。江戸時代後半の薩摩藩政時代、焼内間切須古にカンツメという美しい娘がいたが、貧しさゆえ隣村名柄の豪農の元へヤンチュ(家人、奄美独特の債務奴隷)として身売りされた。主人は働き者の彼女を妾にしようと企む。一方、久慈の役所に岩加那という三線の上手い筆子(てっこ、書記)がいた。ある日公用で豪農の元を訪れた岩加那は宴の席で、歌の上手いカンツメと三線の掛け合いをするうち恋に落ちる。名柄と久慈の間の佐念山で逢引していたことがバレ、主人夫妻により虐待されたカンツメは世を儚み、佐念山で首吊り自殺した。この悲話が「カンツメ節」という島唄として伝承され、元ちとせらにより歌い継がれている。イタジイやタブノキの繁茂する薄暗い佐念山の峠には、碑が建てられ花が活けられている。

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宇検村、焼内湾

峠を越え奄美大島西南端の宇検村に入り、小さな名柄の集落を見下ろすと、大きなリアス式海岸を構成する焼内湾の複雑な様子が目に入る。ここは焼内湾の中程に位置するので、まだ東西にそれぞれ10km以上は広がっているはずだが、全体は眺められない。

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宇検食堂、豚骨定食

焼内湾の東奥に宇検村役場のある湯湾集落があり、そこに村唯一ともいえる食堂兼宿泊施設の「開運の郷やけうちの宿」がある。宿は8室のきょむらん館の他に五つのコテージがあり、隣接する「やけうちの湯」で入浴できる。併設されている宇検食堂では、奄美の郷土料理が味わえる。まず昼食では、豚骨定食を頼む。よく煮込んである豚骨が美味しい。

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奄美の郷土料理会席

昼食後は黒糖焼酎「れんと」で知られる奄美大島開運酒造の広大な工場を見学する。「れんと」とは音楽用語で「ゆっくりと」という意味。熟成タンクにつけられた専用スピーカーから伝わるクラシック音楽の振動を利用して音響熟成しているという。しかし、「れんと」よりも高級ラム酒のような40度もある「紅さんご」が格別に美味しかったので、そちらを一本買い求めた。宿の名、「開運の里」は、この大きな工場があるためとようやくわかった。

さて、夕食では奄美の郷土料理の会席を頼んだ。先付は地豆豆腐、もずく酢、豚耳燻製に、お造りが勘八炙りである。

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赤ウルメの味噌サネン焼き

焼物は赤ウルメの味噌サネン焼きである。赤ウルメはタカサゴ、沖縄ではグルクンと呼ばれる。サネンとは香りの良いハナミョウガ属の月桃の葉である。

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豚軟骨、冬瓜の煮物

次は豚軟骨、冬瓜、大根、人参の煮物。やはり豚軟骨が美味しい。

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トビンニャとハンダマの胡麻酢ダレ、ソデイカの味噌漬け

中鉢はソデイカの味噌漬け、酢の物はトビンニャとハンダマの胡麻酢ダレ。トビンニャはマガキガイ、ニャは貝のこと。ハンダマとは、葉裏が紫の熱帯原産の多年草で、沖縄の伝統的農作物。愛知県では式部草、金沢周辺では金時草、各地で水前寺菜とも呼ばれて流通している。

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車海老、長命草、ニガウリの天ぷら

揚げ物は宇検村名産の車海老、長命草、椎茸、ニガウリの天ぷら。ありきたりに見える天ぷらだが、素材に郷土色が出ている。

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鶏飯茶漬け、パパイヤの漬物

さらに鶏飯茶漬けにパパイヤの漬物がつく。一品一品は少量だが、数が多いので黒糖酒もすすみ、かなり腹がいっぱいになる。

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マンゴー、カシャ餅、あく巻き

デザートはマンゴーにカシャ餅、あく巻き。カシャ餅とは奄美の特産品で、黒糖とよもぎをもち米に練りこんで作り、カシャ(月桃)の葉で包んだ餅菓子。フチモチとも呼ぶ。あく巻き(灰汁巻き)は南九州で主に端午の節句に作られる和菓子で、もち米を灰汁で炊くことで独特の風味と食感を持ち、薄味なので黒蜜やきな粉をかけて食べる。どちらも初めて食した。以上、郷土色豊かな会席料理を興味深く味わった。

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テイキンザクラ

やけうちの宿の庭には、珍しい花が咲いていた。真っ赤な5弁の花は、テイキンザクラ(提琴桜Jatropha integerrima)という西インド諸島原産の常緑樹。主に沖縄、九州南部で栽培される。提琴とはバイオリンのことで、葉の形が似ることに因む。

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オオベニゴウカン

こちらの赤い花は、オオベニゴウカン(大紅合歓、Calliandra haematocephala)というネムノキ亜科の熱帯性常緑低木。化粧パフに似た真っ赤な半球形の10cmほどの花を咲かせる。属名のカリアンドラとも呼ばれるが、英名のレッドパウダーパフ(red powederpuff)とも呼ばれる。

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アオノクマタケラン

これは月桃の近縁種、アオノクマタケランAlpinia intermedia)。南九州以南に自生するゲットウ月桃Alpinia zerumbet)も、九州以南に自生するアオノクマタケランも、四国・九州以南に自生するクマタケランAlpinia formosana)も、どれも葉の形はそっくりで区別がつかず、沖縄や奄美で料理を包む場合に使われる。アオノクマタケランの穂状花序は上向きで、他は下向き。ゲットウの大きな花弁の唇弁は、黄色で中央は赤いので区別できる。

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ハイビスカス

こちらはよく見るハイビスカス(Hibiscus)。ハワイ、モーリシャス諸島産の原種から改良された園芸植物で、南日本では戸外で庭木としてよく植えられている。品種は大輪系、在来系、コーラル系に分けられ、花色も基本の赤色のほかピンクや黄色やオレンジ色などがある。この花は最も普通に見られる大輪系の赤色種である。