半坪ビオトープの日記

瀬戸合峡


川俣ダムの直下流に位置する瀬戸合峡は、約100mにも及ぶ岩壁が2kmにわたって連続する峡谷で、ダムから吊橋まで往復約1時間の瀬戸合峡遊歩道が整備されている。その両方を同時に上から見下ろすことができるのは、県道23号の瀬戸合トンネル手前の旧道を上り詰めたところにある、瀬戸合見晴茶屋である。ちょっと遠回りだが絶景を一望できる。 

旧道を下って川俣ダムに近づくと、瀬戸合峡遊歩道入り口に着く。川俣ダムは峡谷内に建設されたダムで、峡谷の上流側はダム湖である川俣湖に隣接している。一帯には平家の落人伝説が残る集落が存在していたが、昭和41年(1966)の川俣ダム完成とともに水没し、集落は川俣温泉周辺に移転した。

瀬戸合峡は、凝灰岩の浸食によって生まれた峡谷で、紅葉の名所として知られ、「とちぎの景勝100選」に選ばれている。川俣ダム完成によってダム下流の水量が激減し、川底を見せる峡谷として知られていたが、2004年から放流を開始した結果、水量は元に戻った。それと同時に川俣ダム正面の岩壁に架けられていたダム管理用の吊橋が改築され、「瀬戸合峡渡らっしゃい吊橋」と命名され観光客に開放された。

川俣ダムから瀬戸合峡を覗き込むと、100mの落差は想像以上に深く、ダム管理用の梯子段なども見えるが、ダム管理も大変に違いない。

ダム管理事務所の脇からどんどん下って行って、鞍部から今度は登っていくと、最高所の展望デッキに着く。遊歩道の階段は401段あるというが、東屋があって休憩できるので助かる。ダムと反対方向には日光連山が見えると書かれているけれども、あいにく曇り空で確認できなかった。

展望デッキから少し下ると「天使の鐘」という展望台がある。吊橋の先にある岩峰の周りには春から秋にかけてイワツバメが飛び交うので、この辺りを「天使の丘」と名付け、鐘を鳴らせば幸福が訪れるようにと「天使の鐘」を設けたという。

吊橋の先にある切り立った岩峰は、松の木を中心に樹木で覆われている。標高は約1000mあるそうだ。

吊橋の手前の階段脇に、ユニークな形状のツチグリ(Astraeus hygrometricus)が生えていた。成長するとヒトデのような外皮が開き、中心の球形のグレバの中には放出する胞子が包まれている。色は白色から灰褐色まであるが、淡褐色のものが多い。白っぽい幼菌は汁物、炒め物などにして食べられるが、あまり食用にはされていないという。特異な形とひび割れたような外皮の模様を楽しめばよいだろう。

ようやくたどり着いた「瀬戸合峡渡らっしゃい吊橋」だが、恐る恐る渡りきってみると、突き当たりで戻るしかない。少しは峡谷沿いに遊歩道があればいいのにと思う。

ダムの堤体を正面から望むことができるところは少なく、下を覗き込むと圧倒される。型式はアーチ式コンクリートダムで、高さは117m。洪水調節・不特定利水・発電を目的としている。ダム管理事務所の上の森の中には、先ほど訪れた瀬戸合見晴茶屋が認められた。

帰りがけにもう一度瀬戸合峡を覗き込んでみたが、高所恐怖症の者には吸い込まれるように感じる。先の方に小さな橋が見えるが、峡谷の下に遊歩道があるのだろうか。

100mという深さの峡谷を侵食するのに、どれほどの年月を要したのか想像できないが、人跡未踏と思われる険しい絶壁には驚嘆せざるを得ない。秋の紅葉もぜひ見たいものと思う。