半坪ビオトープの日記

御薬園、薬草標本園


土湯で泊まった翌日、会津若松市にある御薬園を見学した。会津松平氏庭園として国の名勝に指定されている。

御薬園の起こりは、室町時代に霊泉の湧き出したこの地に、永享4年(1432)蘆名盛久が別荘を建てたのが始まりといわれる。敷地は約1.7haあり、中央に池泉回遊式庭園がある。庭園北西側には9代藩主松平容保の孫にあたる秩父宮妃勢津子ゆかりの建物、重陽閣が移築されている。

庭園北側には藩政時代の薬草栽培地を利用した薬用植物標本園があり、会津産薬草約200種を含め、約400種の薬草が栽培されている。
アスチルベの花に止まっている蝶は、コミスジ(Neptis sappho)。シベリアから東南アジアまでアジアには広く分布するが、日本では北海道から屋久島までで南西諸島には分布しない。低地や丘陵地の森林周辺に多く、郊外の住宅地でも見られるが、山頂にはあまりおらず山麓の蝶といえる。
アスチルベは、ユキノシタアスチルベ属いわゆるチダケサシ属で、園芸品種として巷によく出回っているが、日本に分布するチダケサシ(Astilbe microphylla)は薬草として知られていない。アスチルベ属ではアカショウマ(Astilbe thunbergii)やその変種のトリアシショウマ(A. t. var. congesta)にショウマ(升麻)の名がつくが、升麻はキンポウゲ科サラシナショウマの根茎の漢方薬である。かつて升麻の代用とされたことがあるのは、アカショウマの根茎だが、アカショウマの花序は細く花色も白色で、園芸品種のアスチルベとは似ていない。ただ、園芸品種のアスチルベは、日本原産のアワモリショウマ(Astilbe japonica)と中国原産のオオチダケサシをヨーロッパで交配させてできたものなのであり、アワモリショウマは薬効として解熱・うがい薬として知られているが、近畿地方から九州にかけて生育している。

この雑草のような葉は、カラムシ(Boehmeria nivea var. nipononivea)という。イラクサ科の多年草で、南アジアから日本を含む東アジアまで広く分布し、古来から植物繊維を取るために栽培されたため、文献上でも別名が多く、紵(お)、苧麻(ちょま)、青苧(あおそ)、山苧(やまお)、真麻(まお)などがある。また、カツホウ、シロソ、コロモグサ、カラソともいう。茎の皮から衣類、紙、漁網まで利用できる丈夫な靭皮繊維が取れるため、約6000年前から栽培されてきた。『日本書紀持統天皇7年(693)条によれば、天皇が詔を発して役人が民に栽培を奨励すべき草木の一つに「紵(カラムシ)」が挙げられている。カラムシを原料とする上布の生産地では、越後(越後上布小千谷縮布)や宮古宮古上布)、石垣(八重山上布)などがあるが、奥会津の昭和村は本州唯一の上布原料産地となっている。

こちらの白い花は、キョウチクトウ科のチョウジソウ(Amsonia elliptica)である。湿った草地に生える60cm前後になる多年草で、北海道から本州、九州に分布する。解熱に用いられる薬草だが、全草にインドールアルカロイドを含む有毒植物でもある。花が美しいため採取されたりして、全国各地で絶滅危惧種に指定されている。

こちらの草は、漢方薬でも知られるカンゾウ(甘草、Glycyrrhiza uralensis)である。中国からヨーロッパ南部に分布する多年草で、日本では古くからわずかに栽培されるにすぎない。漢方でも重要な生薬である甘草は、解毒、のどの痛み止め、去痰、消炎、神経痛の鎮痛などに薬効がある。甘味も蔗糖の約50倍あり、甘味料として醤油、菓子などに広く利用されている。

こちらはシソ科のメハジキ(Leonurus sibiricus)である。本州、四国、九州の野原、道端に自生する2年草で、小さな淡紅色の花を咲かせる。全草を乾燥した生薬、益母草(やくもそう)は、産後に止血、月経不順、めまい、腹痛に薬効があり、利尿作用や血圧降下作用も知られている。

こちらの鮮やかな赤紫色の花は、園芸品種としてもよく知られたジギタリス(Digitalis purpurea)である。ジギタリスという学名は、花の形からラテン語の指を意味するdigitus に由来し、デジタル(digital)と語源は同じである。ヨーロッパ原産で観賞用あるいは薬用に世界中で広く栽培されている。全草に猛毒があり、古代より切り傷や打ち身に対して薬として使われていた。強心剤としての薬効が知られてからは、うっ血性心不全の特効薬として不動の座を得ている。

こちらのマメ科の草は、クララ(Sophora flavescens)という。本州、四国、九州の草原に自生する多年草で、高さは50〜150cmになる。和名の由来は、根を噛むとクラクラするほど苦いことから、眩草(くららぐさ)と呼ばれ、これが転じてクララと呼ばれるようになったといわれる。全草有毒であり、根の部分が特に毒性が強く、量を間違えると呼吸困難で死に至る場合もある。根は苦参(くじん)という生薬となり、消炎、鎮痒作用、苦味健胃作用があって漢方に使われる。また、全草の煎汁は、農作物の害虫駆除薬や牛馬など家畜の皮膚寄生虫駆除薬に用いられる。