半坪ビオトープの日記


硫化水素を含む火山性ガスが今でも噴出する、大涌谷の一つ先に姥子というロープウェイの駅がある。ここには知る人ぞ知る箱根の秘湯、田山花袋も「日本温泉めぐり」で紹介している、姥子の湯「秀明館」がある。

夏目漱石の「吾輩は猫である」の最終章で、美学者の迷亭先生が語る思い出話に「どうもこうも仕様のない不便の所さ。」との一節に出てくるのがこの姥子の温泉である。この写真は、裏手の姥子堂と周辺の石仏や石祠。

姥子が温泉地として開発されなかった理由は二つある。一つは、姥子温泉が箱根三所大権現(箱根神社)の神領内にあり、日光とともに関東における山岳信仰霊場修験道の行場とされたこと。
もう一つは、徳川幕府による関所の設置で、特に元箱根と仙石原周辺の取り締まりが厳しかったことである。
姥子堂に向かい建つ薬師堂には、戦国時代に地中から発見されたという如来像が祀られている。

秀明館の源泉は岩盤自然湧出泉といって、浴舎の中に取り込まれた岩盤から迸り出ているが、雨が少ない冬には枯れてしまう厄介な湧泉である。
しめ縄のある聖域は入浴厳禁とされているが、源泉は48度以上あり、水でぬるくした右手前の浴槽以外には入れない。洗い場もなく、石鹸、シャンプーも使用禁止で、ただ湯に浸かるだけだ。
泉質は単純温泉なのだが眼に効くとされるミョウバン成分を含み、古来より有名な温泉発見伝説がある。足柄山の金太郎(源頼光)が目を患ったとき、姥にお告げがあった湯で洗ったら数日で治ったので姥子の湯と呼ぶというものだ。それゆえ、身体は洗えないが、流れる湯で眼を洗うことは許されている。