半坪ビオトープの日記

元地灯台へ

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元地港と桃岩

ツバメ山の山頂に近づくと右下には元地港と桃岩が見え、桃岩の下の桃台・猫台展望台も認められた。

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ハクサンチドリとミヤマナナカマド

道端の笹原には、赤紫色のハクサンチドリの近くに小さな白い花が咲いていた。よく見ると、かなり矮性のナナカマドである。多分、タカネナナカマドより小さい、ミヤマナナカマド(Sorbus sambucifolia var.pseudo-gracilis)のつぼみであろう。北海道と本州中部地方以北の亜高山帯〜高山帯の低木林に自生する。葉は小葉が3〜4対向かい合ってつく、奇数羽状複葉。初夏に白い花を多数咲かせる。

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エゾエンゴサク

同じく笹原に、キケマン属のエゾエンゴサクcorydalis fumariifolia subsp.azurea)の花を見つけた。北海道、南千島、サハリンに分布し、樹林地や林縁、草地などに生育する多年草。花期は4月から5月。茎の上部に青紫色の花を総状花序に咲かせる。北海道では春を告げる花として親しまれるが、落葉広葉樹林の若葉が広がる頃には地上部は枯れてなくなり、その後は翌春まで地中の地下茎で過ごす、スプリング・エフェメラルの一種。同属のキケマンやムラサキケマンなどと違い、毒性がなく風味がよいので食用に供される。礼文島ではアメフリバナと呼ばれ、若菜はお浸しにして食べたりするという。塊根はアイヌ語で「トマ」と呼ばれ、保存食として利用されてきた。エンゴサクとは、地中の塊茎が漢方薬の「延胡索」に似ていることによる。本種によく似ていて、東北地方や北陸地方に分布するものは、別種のオトメエンゴサク(C. fukuharae)とされる。

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ツバメ山の展望台から

ようやくツバメ山の山頂に着いた。展望台から360度の見晴らしを楽しむことができるが、まだ先に一山ある。南へとなだらかな尾根を辿ると元地灯台の展望台へと至る。

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桃岩とユースホステル桃岩荘

北を振り返ると眼下に桃岩や元地港が見える。桃岩の麓には桃台・猫台の駐車場があり、その手前の道がたどり着く赤い建物がユースホステル桃岩荘である。ここは1967年開設。その翌年、大雪山トムラウシ縦走後に利尻山登山を目指したが、悪天候のため礼文島に寄り、ここにテントを張って一夜を明かしたのはおよそ半世紀前。当時、「南の与論・北の桃岩」は、旅する若者の溜まり場といわれていたのを思い出す。

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利尻島

東の方向には利尻島が間近に迫っている。右下にはこれから下る知床の集落があり、そこから左(北)に向かうと北のカナリアパークが小さく認められる。

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レブンハナシノブ

元地灯台に近づく頃にはいわゆる高山植物が少なくなってくる。それでもこのレブンハナシノブの花は鮮やかで目立つ。紫色の花びらと黄色の雄蕊が引き立て合って美しい。

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エゾオオマルハナバチ

タンポポの花にしがみついて花粉を集めているのは、これこそエゾオオマルハナバチに違いない。北海道にはマルハナバチの仲間が12種いるとはいうものの、大きさと色柄からエゾオオマルハナバチといえよう。

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元地灯台

ようやく元地灯台に着いた。標高200mのここから知床集落まで2kmを約40分、なだらかな道を黙々と下っていくことになる。

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センダイハギ

黄色いマメ科の花は、センダイハギ(Thermopsis lupinoides)という多年草。北海道と本州の中部地方以北の海岸近くに生え、高さは4080cmになる。先代萩という和名は、仙台藩伊達騒動を題材にした歌舞伎の「伽羅(めいぼく)先代萩」に由来するという。茎先に総状花序を出し、鮮やかな蝶形の花をつける。

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セイヨウタンポポ

元地灯台からの下り道にタンポポの花がだんだん増えてくるので、もしかしたら中部地方から北海道に普通に生えているエゾタンポポ(Taraxacum hondoense)ではなく、外来植物のセイヨウタンポポ(Taraxacum officinale)ではないかと不審に思い、花をひっくり返して総苞を調べると反り返っていたので、セイヨウタンポポと確認できた。礼文島ではかなり前からエゾタンポポが激減し、セイヨウタンポポあるいは交雑タンポポが広範囲に繁殖していることが問題とされ、セイヨウタンポポの除去作業が十年ほど前から行われている。

 

キンバイの谷

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サクラソウモドキ

またもやサクラソウモドキの花が現れた。茎先に下向きの花を3〜8個つけるが、いつも下向きなので、黄白色という花冠の内側は確認できなかった。それでも漏斗状で先が五つに裂ける花冠は、赤紫色が鮮やかだ。珍しい花なので形と色を目に焼き付けておこう。

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ツバメ山とエゾノハクサンイチゲの群落

ツバメ山が近づいてきて急峻な崖の様子もよく見えるようになった。右手にはまだエゾノハクサンイチゲの群落がある。

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エゾノハクサンイチゲ

エゾノハクサンイチゲ(Anemone narcissiflora var.sachalinensis)は、ハクサンイチゲ(Anemone narcissiflora)の地域変種とされ、北海道と東北地方のほか、サハリンにも分布するが、ハクサンイチゲもヨーロッパや北米の母種の地域変種で日本固有種(Anemone narcissiflora var.japonica)とする見解もある。種小名のnarcissifloraは、スイセン属Narcissusに似た花という意味でリンネの命名スイセンのように見えるということだが、よく見るとかなり違っている。

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エゾイワハタザオ

こちらの白い花は、アブラナ科のフジハタザオの変種で、エゾイワハタザオ(Arabis serrata var.glauca)という多年草。北海道と東北の亜高山帯〜高山帯の砂礫地や岩隙に生え、千島、サハリンにも分布する。茎葉は茎を抱き、茎先に4弁花を多数つける。

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ハクサンチドリ

この花は、北海道と本州中部地方以北の亜高山帯から高山帯の草原や湿原に自生するハクサンチドリ(Dactylorhiza aristata)だが、ここ桃岩周辺ではあちらこちらでよく見かける。花色は本州のものに比べてかなり濃く、極めて鮮やかな濃赤紫色といえる。花の左右に羽を広げたように見えるのは側萼片と呼ばれる部分である。花の上部では上萼片と側花弁が合わさって帽子のように見える。花の下部にあるのは唇弁で、円形をしており先が尖る。

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レブンアツモリソウ

ようやくキンバイの谷にやってきた。道端の低い笹原の中にとうとう自生のレブンアツモリソウ(Cypripedium marcanthum var.rebunense)を見つけた。礼文島にのみ生息する野生ランで、アツモリソウの変種である。花色はクリーム色で、6月上旬ごろに開花する。唇弁は大きな袋状で、側花弁は広卵形で先は短く尖る。アツモリソウの和名は、袋状の唇弁を持つ花の姿を、平家物語などの軍記物語に描写された平敦盛の背負った母衣(ほろ:後方からの矢を防ぐ武具)に見立ててつけられた。絶滅の危機に瀕しているため、自生地周辺ではレンジャーが見張っている。

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レブンキンバイソウ

こちらがキンバイの谷の名の元になったレブンキンバイソウ(Trollius ledebourii var.polysepalus)という多年草礼文島固有種で、根生葉は3全裂し、側裂片はさらに2裂する。花は橙黄色、花弁に見える萼片は5〜10個、雄蕊のように見える花弁は雄蕊より長く、萼片より短い。まだ開花時期に早いのかわずかしか見つからなかった。隣の利尻島には、同じ仲間で利尻島のみに自生する、雌蕊の先が赤くなるボタンキンバイが自生する。

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ミヤマクロユリ

こちらも僅かに見つかったミヤマクロユリFritillaria camtschatcensis var.alpina)。北海道、本州の月山、飯豊山地中部地方の亜高山帯〜高山帯の草地に生える高さ1020cmの多年草。花は暗紫褐色で、茎先に1〜2個つく。母種のクロユリは花が大きく茎先に3〜数個つく。

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ツバメ山

キンバイの谷からツバメ山は大きく見えるが、360度の展望を楽しみながら20分ほどで登れる。

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ミヤマキンポウゲ

こちらの花は今までの道端でもよく見かけたミヤマキンポウゲ。レブンキンバイソウの花に比べると小さくて花数が多い。

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レブンキンバイソウとエゾノハクサンイチゲ

利尻山をバックにレブンキンバイソウとエゾノハクサンイチゲをセットで撮影できた。紫色の花はハクサンチドリである。

 

キンバイの谷へ

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高山植物利尻山

桃岩展望台トレッキングコースは、6・7月にピークを迎えるシーズン中に礼文島内に咲くほとんどの花が見られることから「礼文フラワーロード」とも呼ばれる。キンバイの谷への道はゆっくりとジグザグに南西に向かうが、東に振れた時に左手に利尻山の勇姿が見える。上空は分厚い雲に覆われているが、利尻島が見えるだけでもよかった。手前の高山植物も赤紫、白、黄色と賑やかである。

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レブンコザクラ

中で最も鮮やかな花がレブンコザクラ(Primula farinose subsp. modesta var.matsumurae)である。サクラソウ属には類縁種が多くあるが、この花もユキワリソウの変種で、主に礼文島に自生する。レブンコザクラは全体に大型で、一つの花茎に10個前後の花がつくのだが、20個近い花がついているこれは特別に大きい。

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エゾノハクサンイチゲと桃岩

右手にはエゾノハクサンイチゲの群落が続き、その先にまだ桃岩の上部が見える。

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ミヤマオダマキ

道端には、青紫色のミヤマオダマキAquilegia flabellata var.pumila)の花が咲いている。北海道〜中部地方以北の高山帯の草地や礫地に生える多年草。花弁に見える5個の青紫色の萼片は傘状に開き、中の花弁は円筒形にまとまって付き、先端はやや白っぽく、花弁の基部は萼の間を抜けて距になり、先は内側に曲がる。周りの小さくて黄色の花は、キジムシロ(Potentilla fragarioides var.major)。日本中の雑木林、草原などに普通に見られる。類縁種が多いが、葉が奇数羽状複葉で5〜7枚なので区別できる。黄色の花弁の基部がオレンジ色になるのは珍しい。

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エゾノハクサンイチゲ

エゾノハクサンイチゲと、本州中部に分布するハクサンイチゲとの違いは、葉の幅が広く先端が尖らないこと、花の柄が短いことといわれるが、その区別は難しくそっくり同じに見える。

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オオバナノエンレイソウ

叢の中で見つけたこの花は、オオバナノエンレイソウTrillium camschatcense)という多年草。北海道と本州北部の山地帯から亜高山帯の湿地、草原、林下に生える。ミヤマエンレイソウにも似るが、花弁が大きく、やや上向きに咲く。本種の葯は花糸より長い。エンレイソウの仲間は全て開花までに1015年を要するが、その後最低でも10年間開花し続けることから、寿命は2050年と考えられている。

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ホソバノアマナ

こちらの小さな花は、ユリ科チシマアマナ属のホソバノアマナ(Lloydia triflora)という多年草。日本各地の山地の草原や林縁に生育する。花期は4月下旬〜6月。花茎の先に枝を分けて1〜5個の花をつける。花は平開せず、漏斗状。花被片は6個、白色で淡緑色の脈があり、短い雄蕊が6個ある。

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ミヤマキンポウゲ

こちらの黄色の花は、ミヤマキンポウゲRanunculus acris var.nipponicus)という多年草。北海道〜中部地方以北の亜高山帯〜高山帯の湿り気のある場所に生える日本固有種。雪田周辺に群生することが多い。

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元地漁港

笹原の高台から右後方を眺めると、桃岩の頭がかすかに認められ、眼下には元地漁港がよく見える。元地漁港の先には地蔵岩が立ち、その先に礼文滝のある谷があって、そのさきは人跡未踏の断崖海岸が続く。礼文島東海岸には道路があるが、西海岸は元地漁港周辺しか道路がないのである。

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ツバメ山と猫岩

高台の右前方には、ツバメ山と呼ばれるさらに高い山があり、その右手に猫岩へと至る大きな断崖絶壁がどっしりと構えている。そのツバメ山との間にキンバイの谷と呼ばれる低地があって、ここから降ってまた登ることになる。

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利尻山

キンバイの谷に降る前に、また左手に利尻山が見えてきた。

 

桃岩展望台へ

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桃岩登山口の上にあるレンジャーハウス

三日目、天気は芳しくないが、いよいよ礼文島最大の見どころ、桃岩展望台コースを歩く。まずは桃岩登山口の上、レンジャーハウスまでタクシーで向かう。

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利尻山(1,721m)

利尻山1,721m)が見えるけれど残念ながら雲が多い。それでも残雪によりその勇姿が認められるのが幸いだ。左の山裾に小山があるが、それがポン山(444m)で、登山口はその右手にあるはずだ。もちろん往復11時間の登山は若者でなければ無理である。

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桃岩展望台から桃岩を見る

15分で最初の展望スポット、標高228mの桃岩展望台に着く。目の前に礼文を代表する奇岩、桃岩(250m)が迫る。桃岩はマグマが作った巨大な溶岩ドームで、新第三紀中新世に、浅い海底の柔らかな堆積物にデイサイトマグマが貫入してできたと考えられている。

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桃台・猫台と駐車場

桃岩の左手の谷底には桃台・猫台という、桃岩と猫岩の展望台とその駐車場が見える。

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猫岩

その先の磯に立つ四角い岩が、右上の二つの突起を耳と捉えて形から猫岩と呼んでいる。背中を見せているというが、こちらを向いているようにも見える。

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桃岩の右手の山

桃岩の右手にも高い山があり、その裾の彼方に元地港が見える。

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桃岩登山口のバス停

山の連なりは北へ続き、桃岩登山口のバス停も眼下に認められた。北の彼方に見える高い山は、正確なコンパスと地図がないと確かめられないが、礼文岳と思われる。

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レブンハナシノブ

展望台から先は広々とした高原ハイキングコースの雰囲気で、標高200mほどなのに高山植物が咲いている。紫色のこの花は、レブンハナシノブ(Polemonium caeruleum ssp. Yezoense var. laxiflorum f. insulare)という礼文島特産種である。学名が非常に長いが、北海道に分布するカラフトハナシノブの中で、礼文島だけに自生するハナシノブ属の多年草。花期は5月下旬から6月下旬。花序が短く花が密生している。

左上のマルハナバチは、エゾオオマルハナバチ(Bombus hypocrita sapporoensis)と思われるが、日本に生息するマルハナバチは20種以上になるので、北海道に住むもののうちから見た目で最も似ているハチとして選んだ。

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サクラソウモドキ

こちらの風変わりな花弁の花は、サクラソウモドキ属のサクラソウモドキ(Cortusa matthioli ssp. Pekinensis var. sachalinensis)で、礼文島利尻島、札幌周辺などに分布する。北海道レッドリストでは、レブンサクラソウモドキとして希少種に指定されているように、礼文島には多い。サクラソウ属のように花が平開しないので、似て非なる種属である。茎先に下向きの花をつけ、紫紅色の花冠は漏斗状で先が五つに裂ける。

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桃岩

桃岩にはアイヌの伝説がある。時は江戸時代、礼文島において香深アイヌと天塩アイヌとの間に争いが起こった。やがて、香深アイヌからの休戦の申し入れを天塩アイヌが受け入れて、桃岩の頂上で講和の誓いをたて祝宴となった。そして、香深アイヌが頂上に祭壇を作り、数々の宝物を天の神に供えたところ、端から彩雲が降りてきて宝物を受け取り、天空遥かに舞い上がっていった、と伝えられている。

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エゾノハクサンイチゲと桃岩

桃岩を眺めながら進むが、花の種類がだんだん多くなってくる。この白い花は、エゾノハクサンイチゲAnemone narcissiflora var. sachalinensis)というイチリンソウ属の多年草。北海道から東北地方北部、サハリンの高山帯に分布する高山植物

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エゾノハクサンイチゲのお花畑

桃岩の左手に向き合う崖は北向きだが、斜面にはエゾノハクサンイチゲが咲き乱れていてお花畑となっている。桃岩展望台から元地灯台にかけての丘陵地帯は、礼文島屈指のお花畑があり、「花の浮島」とも呼ばれる。海をバックに高山植物のお花畑を眺められる場所は、日本広しといえども、ここ桃岩周辺だけである。

 

澄海岬、金田ノ岬、船泊の夕陽

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澄海岬

礼文島北部の飲食店がほぼ休業中のため、船泊でようやく見つけた食堂で岩海苔ラーメンを食べた後、ゴロタ岬の南にある澄海(すかい)岬に向かった。礼文きっての絶景スポットとして知られる澄海岬は、その名の通り、澄み渡ったコバルトブルーの海水が入江を満たし、礼文島の中で最高の透明度を誇る。断崖絶壁に囲まれているため、渚に近づくことはできないが、それゆえに手付かずの美しい入江が残されているといえよう。

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稲穂ノ崎

入江の正面には険しい稲穂ノ崎の峰がそそり立っているが、その向こう側には鉄府の漁港があり、さらに海を越えた先には先程登ったゴロタ岬が断崖絶壁を見せている。

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鉄府厳島神社

稲穂ノ崎の先端には小高い亀のような岩があるが、そのてっぺんに小さな赤い鳥居と社が見える。それが鉄府厳島神社であり、祭神は市杵島姫命である。

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金田ノ岬のアザラシ

澄海岬の絶景を十分満喫した後、船泊の久種湖畔を眺め、さらに金田ノ岬に行く。船泊湾を挟んでスコトン岬の反対側に位置する、礼文島東北端の特筆すべき眺望のない岬だが、アザラシの姿が見られることで知られることを思い出し、漁港直営の食堂の裏手を眺めると、浅い岩場の上で寝転んでいるアザラシを見つけた。

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金田ノ岬のアザラシ

群から離れた浅瀬に白いアザラシもいる。

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金田ノ岬のアザラシ

辺りをよく見るまでもなく、十数頭のアザラシが思い思いの格好で寝そべっている。大自然の中で生き生きとしたアザラシの姿を見ることができて、なんだか随分得をした気分となった。

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焼酎「礼文島こんぶ」と純米酒「麗峰の雫」

礼文島で部屋飲み用に購入した酒類は、礼文島こんぶ使用の焼酎「礼文島こんぶ」と、利尻麗峰水使用の純米酒「麗峰の雫」。コンブ焼酎はかすかに昆布の香りがして物珍しい。

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キタムラサキウニや青つぶ貝などの夕食

船泊の民宿の夕食は、地元の食材を使ったそこそこの料理だが、ここでもキタムラサキウニが少し出た。その下の緑色の貝は、礼文島特産の青つぶ貝。干物は北海道特産の八角

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船泊湾の夕陽

船泊湾に面する民宿から、スコトン岬の先のオホーツク海に沈む夕陽を見ることができる。

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船泊湾の夕陽

よく見ると、スコトン岬と無人島のトド岩との間に太陽が沈んでいくのがわかる。オホーツク海の彼方には雲の層があって海に直には沈まない。

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船泊湾の夕陽

たなびく雲に太陽の光が反射して、時間の経過とともに大袈裟に変幻する夕陽のショーが演じられる。

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通称タコ公園

西の海に陽が沈んだと思ってもまたもや空が明るくなって、左手を見ると礼文町総合公園にあるタコの滑り台が目に入った。通称タコ公園といわれるかわいい公園の右手へ海岸に降りると、穴の空いた無数の貝殻が砂浜を覆っている。穴は二枚貝を食べる巻貝が開けたもので、「穴あき貝」と呼ばれてペンダントなど装飾品の材料にもなっている。

 

礼文島、ゴロタ岬、スコトン岬

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利尻山

6月上旬前後に咲くレブンアツモリソウを見るために、先月上旬、礼文島に出かけた。稚内から礼文島の香深港へ向かうフェリーから左手に利尻山が眺められた。利尻富士とも呼ばれる名峰・利尻山1721m)は、日本最北の百名山であり、登山家の憧れの山の一つだが、登る体力がなくなった今、一眼でも眺めることができて感無量である。

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礼文島・香深から見る利尻山

香深の宿からも雪の残る利尻山の姿が美しく見えた。旅の後半に利尻島に行くことになっているが、予報では天候が悪くなるというので、秀麗な利尻富士の姿に出会えて幸運だった。このあと礼文島を一周する間に何回も見ることになるが、青空の下で利尻山の勇姿を眺めるのはこれが最後となった。

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礼文島の海鮮料理

初日の夕食は北海の海鮮三昧で、礼文島でとれたてのエゾバフンウニは少量だが味が濃厚でこの上なく美味しかった。アワビもホタテもイクラもどれも美味しい。左手前のナマコは「茶ぶりナマコ」という。元々は能登の郷土料理だが、番茶にさっと通して生臭さをとり、土佐酢などで味付けすると、柔らかくナマコが食べられる。

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ゴロタ岬登山口の周氷河地形

翌朝、一気に礼文島北部に直行し、西北部のゴロタ岬に向かう。バス停江戸屋で左折し笹原の間を上って、標高70mのゴロタ岬登山口に着く。そこから笹原の細い道を上っていく。今来た道を振り返ると、丸みを帯びたなだらかに続く緩い斜面が連なっているが、これは約2万年前の最終氷期に作られた周氷河地形という。

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遠くにスコトン岬

緩急を繰り返す笹原の稜線を上り詰めると、右手にスコトン岬が見えてくる。手前の漁村鮑古丹に向かって、こちらにも緩やかな斜面が連なる周氷河地形が認められる。

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チシマフウロ

道端にさく淡い青紫色の花は、チシマフウロGeranium erianthum)である。北海道〜東北地方の亜高山帯〜高山帯に分布する。高さは2050cm。花期は6〜8月だが、礼文島では5月下旬〜6月下旬。花は5弁花で、花弁の基部や萼片に長い白毛がある。

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ゴロタ岬近くの断崖

ゴロタ岬は断崖の上を展望台とするが、その断崖を構成しているのは玄武岩で、断崖に近づくと柱状節理が認められる。

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エゾノリュウキンカ

展望台はまだ先だが、わずかな湿地を通り過ぎる時、エゾノリュウキンカCaltha palustris var. barthei)を見かけた。キンポウゲ科多年草で、リュウキンカの変種で大型であり、本州北部、北海道、樺太、千島などに分布する。黄色い花が鮮やかだが、葉、茎、花は食用となり、アイヌ語で「ウフトウリ」と呼ばれ、アイヌの伝統料理「ラタシケプ」の材料にもされた。

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ゴロタ岬の展望台

ようやくゴロタ岬の展望台(180m)に着いた。崖は崩落の危険があり、柵がないと危ない。先端から南の方を眺めると、鉄府漁港と稲穂の崎、岡田ノ崎が見える。

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ゴロタノ浜と鉄府漁港

崖の真下から南に伸びる浜は、ゴロタノ浜という。鉄府漁港のかなた向こうには、かすかに利尻山の姿が認められた。

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スコトン岬とトド島

北を眺めると、スコトン岬の先に浮かぶトド島も姿を現している。スコトン岬は、須古頓岬とも表記される。スコトンとは、アイヌ語でシコトン(大きな谷)・トマリ(入江)=「大きな谷にある入江」の意味である。ゴロタ岬から登山口まで今来た道を戻り、スコトン岬まで江戸屋山道と呼ばれる一方通行の高台で見晴らしの良い道を進むと、上村占魚句碑、銭屋五兵衛記念碑、トド島展望台がある。銭屋五兵衛とは、江戸時代の加賀の豪商で、礼文島を拠点にロシアと貿易をしたという。標高110mのトド島展望台からは、眼下にスコトン岬が見えるほか、晴天時にはサハリンまで眺めることができるという。

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スコトン岬から見るトド島

ゴロタ岬からスコトン岬まで7kmほど北に進む。スコトン岬より宗谷岬の方が僅かに北にあるので、スコトン岬は最近、「最北限のトイレ」「最北限の売店」「最北限のバス停」などと最北限を名乗っている。最果てのレストラン「島の人」で昼食と思っていたが、残念ながら観光客が少ないため休業中だった。裏手の岬の突端まで下りていくと、無人島のトド島が目の前に浮かんでいた。

 

春の花巡り

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湯河原梅林

今年もすでに夏になり梅雨入りしているが、この春の花巡りで出会った花をいくつか紹介する。湯河原郊外の幕山の南麓に1980年に造成された幕山公園に、1996年に設けられた湯河原梅林がある。2月中下旬、約4,000本の紅梅・白梅がさながら「梅の絨毯」のごとく咲き誇る。

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湯河原梅林

幕山斜面に張り巡らされた遊歩道を歩くと、梅の花を間近に見ることができ、梅の香りに包まれる。

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三毳山のカタクリ

栃木県佐野市の郊外に万葉集にも歌われた三毳山(みかもやま、229m)が横たわる。三毳山の北斜面の中腹1.5haに約150万株のカタクリが群生している。3月中下旬に紫色の可憐な花が一斉に咲き揃い、その見事な光景には圧倒される。

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三毳山のカタクリ

カタクリErythronium japonicum)は、ユリ科カタクリ属の多年草で、別名カタコとも呼ばれ、古語では堅香子と呼ばれていた。春先に紅紫色の花を咲かせた後、地上部は枯れる。種子で繁殖するが、発芽から開花まで8年ほどかかる。かつて球根から片栗粉が作られていた。

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大前神社のサンシュユ

栃木県真岡市にある大前神社の境内で、サンシュユ(山茱萸)の花が咲いているのを見つけた。大前神社は1500年有余の歴史を誇る延喜式内社で、祭神として大国主神(大黒様)と事代主神(恵比寿様)を祀る。サンシュユCornus officinalis)は、中国原産のミズキ属の落葉小低木で、春先に葉が出る前に黄色の花を咲かせ、秋には赤い実をつける。

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焼森山のミツマタ

栃木県茂木町の焼森山(423m)の山麓の谷にミツマタの群生地がある。普段は人気のない山全体が最盛期には幻想的な雰囲気に囲まれ、見物客がたくさん集まる。この群生地は、戦時中、紙不足を心配した住民が植えたのが始まりで、谷の斜面約7,000㎡に約7,500本が群生している。

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焼森山のミツマタ

ミツマタEdgeworthia chrysantha)は、中国南西部原産のジンチョウゲミツマタ属の落葉性の低木で、3月中下旬に三叉に別れた枝先に黄色い花を咲かせる。樹皮は和紙や紙幣の原料として用いられる。枝が必ず三つに分かれるため、三叉と名付けられ、三枝、三又とも書く。古代には「サキクサの」という言葉が「三つ」という言端(ことば)に係る枕詞とされ、「先草」「幸草」とも呼ばれた。最古の用例とされる、万葉歌人柿本人麻呂の和歌では、「春さればまず三枝(さきくさ)の幸(さき)くあれば後にも逢むな恋ひそ吾妹」とあり、どちらとも取れる表現になっている。

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鬼無里にある奥裾花自然園のミズバショウ

水芭蕉といえば尾瀬が有名だが、長野県鬼無里にある奥裾花自然園にもミズバショウの群生地がある。5月になると、約7haの広大な湿原に81万本のミズバショウが咲き、日本一ともいわれる規模を誇る。

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鬼無里にある奥裾花自然園のミズバショウ

ミズバショウサトイモ水芭蕉属の多年草で、北海道と本州中部地方以北の日本海側の湿地に自生する。雪解け後の発芽直後、葉間中央から純白の仏炎苞と呼ばれる苞を開く。花に見えるが葉の変形したものである。仏炎苞の中央にある円柱状の花序に小さな花が集まっている。